当院紹介雑誌記事 VEGA76号 EVERYDAY PEOPLE

「明日の子ども達へ」
画像挿入位置 この診療所の児童精神科医、夏苅郁子先生は、夫である夏苅直巳先生と共に4年前にこのやきつべの径診療所を開いた。ここでは一般成人・青年の他、思春期の子ども達の診療を専門的に行う。今年4月、県内で初めて思春期児童のためのデイケア施設を開設、集団療法的手法を使った思春期デイケアに本腰を入れ始めた。

デイケアのプログラムに来る子どもたちは不登校やいじめなどによる対人恐怖症、神経症、引きこもり、またはアスペルガー症候群と呼ばれる発達障害、そして鬱病などさまざまな心の問題を抱えている。「ここに通う子どもたちは学校や不適応教室のような、今ある受け皿からもれてしまった子どもたちです。これまでも外来診療の一環でデイケアをやってきましたが、もっとゆっくり人目を気にせず仲間を作れる場所を作ってあげたいと思っていました」夏苅先生は言う。
 例えばアスペルガー症候群の子どもたちは人と会話のキャッチボールができず、時にカッとなりやすいなどの特徴を持っているため理解者を得ることが難しく、集団の中では疎外されやすい。結果、傷つけられ、ぼろぼろになった状態でこの診療所に辿り着く。他の病気や症状を持つ子どもたちも集団とうまく関われない、ペースを合わせられないことから異端視され続けてきた子どもばかりだ。場合によっては家族の理解すら得られずに、皆、その短い人生を孤独の中で生きてきた。

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心の問題を抱える子どもたちにとって、一番必要なのは早期の療育、行動療法の積み重ねだと夏苅先生は考えている。
施設は1階にはゲームやテレビ、読書などができるレクリエーションルーム、2階には調理室、食堂、休むための畳の部屋、作業室などがある。プログラムは月曜から金曜まですべて6〜7人の小グループで構成され、内容は料理、音楽、学習、外出、 SST(コミュニケーションの訓練)など多岐に渡る。子ども達はプログラムを通じて分担された役割をこなすことや、仲間と連携してひとつのことをやり遂げる訓練をする。もちろん発達障害(脳の障害と、心の問題を抱える場合ではケースは大きく違うが、最終的な目標はあくまでも「社会参加できるようになること」だ。臨床心理士や看護士などの専門スタッフが子どもたちと同等の人数ついて、活動がスムーズに進むよう促したり、子ども同士が不用意に傷つけあったりしないように注意を払う。また、ここでは親のためのミーティングも開かれ、親同士の連携やコミュニケーションの場にもなっている。出席するのは圧倒的に母親が多く、父親が参加することはほとんどないという。

取材で訪ねた日、行われていたのは料理のプログラムだ。子ども達はカジキマグロのピカタを作っていた。レシピを書き付けた紙を読んで指示を出す子、お魚に塩・コショウをして粉をつける子、使ったボウルなどを洗う子…時折、互いに話をしながら作業が進む。私たちが入っていくと皆「こんにちは」と挨拶をしてくれたが、それ以後は却って緊張が高まってしまったのがわかった。カメラを避けるようにしている子ども達の背中を見ていると、夏苅先生の「子ども達は傷だらけ、満身創痍の状態でここにやってきます」という言葉が甦った。「人生にはいろんな宿題がありますよね。小さな宿題のつまづきで、これまでできたことが突然できなくなる…これは誰にでも言えることではないでしょうか」。
子ども達を傷つけてきたものの正体は何なのだろうか。考えるほど、目を逸らしたくなるような現実が思い浮かぶ。
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画像挿入位置 「学校は問題行動を起こす子どもたちには非常に冷たいと思います」。夏苅先生は学校の体制に厳しい目を向ける。「問題行動の意味を考え、どんな工夫をすればその子が集団の中に入っていけるかを、少しでも考えて欲しい」。公立の小中学校では教育委員会の認可を受けなくても、学校単位で保健室以外の相談室などを設けることができる。しかしその必要性を理解している学校現場が少ないのではないか、と先生は指摘する。状況を少しでも変えるため、県内の他の児童精神科の先生達と連携し、学校長へのセミナーなどを行っている。そして地道に積み重ねた努力が徐々に認められ、最近では地域の小中学校の先生方が相談に来るようになった。夏苅先生は「それは何よりのご褒美です」と言う。

居場所がなければ人の心は荒れてしまう。その当たり前のことを受け止めて場を作り、共に生きる。そのことが“医療”という現場に留まらず、私たちの間にこそ浸透すること。そこからしか、未来は見えてこないのではないだろうか。


         写真撮影:多々良 栄里

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