「抑えるのではなく、発作を起こさない」ぜんそく治療

「抑えるのではなく、発作を起こさない」ぜんそく治療

佐野虎ノ門クリニック院長 佐野 靖之先生
1 中高年になって、症状が出てくる方が増えています

  「ぜんそく、ぜんそくとよくいいますが、正式な病名は「気管支ぜんそく」といいます。鼻や口から吸った空気を肺へと運ぶ役目の気管や、その先の気管支 (気管と気管支を合わせて下気道という)が、アレルギー性の炎症を起こして狭くなり、呼吸がしにくくなる病気です。
 さらに、ときどき刺激によって、急に気道が収縮して苦しい症状を起こします。これがぜんそくの発作です。ぜんそくは漢字で「喘息」と書きますが、「喘ぎながら息をする」という病気の状態をよく表していることばです。
 ぜんそくを、子どもの病気だと思っている方も多いかもしれません。しかし、最近は大人になってから、それも四十歳、五十歳、六十歳になって、初めて症状が出てくる方が増えているのです。

 気管・気管支は、一番内側に上皮細胞、次に粘膜があり、それを平滑筋という筋肉が取り巻いています。発作のときは、平滑筋や粘膜自体が炎症を起こして腫れあがったり、筋肉もケイレンを起こして収縮してしまいます。健康な方なら10〜15ミリ、喘息の患者さんでも ふだんは6〜8ミリある内腔の直径が、こんな発作のときは、2ミリほどになってしまうのです。
 それに加えて、気管支内に入ってきた異物を外へ出そうとして、咳が出たり、痰がたくさん分泌されます。これにより、内腔はさらに狭くなり、呼吸が苦しくなったり、胸がとても痛くなったりするのです。

  いま日本では、大人も子どもも合わせて、450万人以上の方がぜんそくといわれます。そしてその患者さんの半数以上を、大人が占めているのです。
 大人の患者さんのうち、二割が子どものころに発症し思春期ぜんそくを経て持ち越した方、一割は、いったん鎮まっていた小児ぜんそくが再発した方です。つまり、七割にあたる大部分の方が、大人になって突然に症状を起こしているのです。

 ぜんそくの典型的な症状は、夜半から明け方にかけて咳や痰が出たり、呼吸困難になるなどです。喘鳴といって、細くなった気管支へ空気を吐きだしたり送り込もうとすることで起こる、ゼーゼー、ヒューヒューなどの音を伴った呼吸困難です。このような発作が長時間止まらない場合は、ほぼ、ぜんそくに間違いないでしょう。
 しかし、大人のぜんそくの場合、はじめは咳だけが強く起こる「咳ぜんそく」になる方が多く、そのあと少しずつ喘鳴などの症状が出てくる方がよく見られます。初期の場合、咳や痰、鼻水などは、風邪と同じような症状なので、ぜんそくとは思わずに放っておく患者さんも少なくありません。そして、ある日突然、呼吸困難や咳が止まらないといった発作に見舞われることがあるのです。


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2 ダニやほこり、過度の疲労など原因はさまざまです

  ぜんそくの原因は、まだはっきりとは分かっていませんが、両親や祖父母の遺伝的体質を強く受けることもあります。両親ともにぜんそくやアレルギーを持っている場合、子どもにアレルギーが発症する確率は高くなり、片親の場合には少し低くなります。
 花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギーを持っている方もなりやすく、ダニやほこり、ペットの毛などのアレルゲン(アレルギーの原因物質)が気道に入ることによって起こるものを「外因性ぜんそく」、アレルゲンが分からないものを「内因性ぜんそく」といいます。約一割の患者さんは、「アスピリンぜんそく」といって、解熱鎮痛剤などの内服で激しい気道収縮を起こし、息をするのも困難な大発作につながることもあります。また、ディーゼルなどの排気ガスや、粉塵などを多く吸い込みやすい環境で仕事をしている方は、スギ花粉やハウスダストなどの抗原に特異的な抗体(体内に侵入した異物を認識する蛋白質)をつくりやすくなってきて、ぜんそくや花粉症になりやすいといえます。
 過労も発作を起こす原因のひとつです。家事や育児、仕事との両立などで何かと忙しい三十〜四十歳代の女性の場合、積もり積もった疲労がぜんそくの発作を引き起こし、症状を重症化することがあります。また、男性女性に限らず、重い荷物を運ぶような肉体労働が多い職種の方や、徹夜が続くような長時間勤務が多い方は、過労による発作に気をつけて下さい。 過労も発作を起こす原因のひとつです。家事や育児、仕事との両立などで何かと忙しい三十〜四十歳代の女性の場合、積もり積もった疲労がぜんそくの発作を引き起こし、症状を重症化することがあります。また、男性女性に限らず、重い荷物を運ぶような肉体労働が多い職種の方や、徹夜が続くような長時間勤務が多い方は、過労による発作に気をつけて下さい。
 注意していただきたいのは、たばこの煙や香水の強い匂いで息苦しくなったり、長話や寒暖の差で声がかれたり咳き込んだり、風邪を引くと咳だけがなかなか治まらないという方です。そういった症状に思い当たる方は、ぜんそくかもしれませんから、放っておかず、一度、医師に相談してみるのがよいでしょう。

3 軽症だからといって治療を怠ると重症化することがあります

 
発作のときは、のたうち回るほど苦しかったりするのですが、いったん鎮まってしまうと、ふだんの生活に何の支障もないのが、ぜんそくの特徴です。そのため患者さんは、しばらく発作が起こらないと、ぜんそくが治ったと思い込んで治療を止めてしまう場合があります。また、患者さんによっては、医師に相談せずに勝手にクスリの量を減らしたり、クスリを止めてしまうのです。
 最初は軽症であっても、治療を怠っていると、悪くなったりよくなったりを繰り返しながら、5〜10年、10〜20年の長い期間を経て重症化したり、肺の働きが低下してしまいます。ぜんそくは、いったん重症化してしまうと、通常の生活に戻れなくなることもあるので、軽視してはいけません。
 治療を怠ったために症状が悪くなり、大発作を引き起こすケースも少なくありません。残念なことに、いまもまだ、毎年3000人以上もの患者さんが、ぜんそくの大発作で亡くなっています。

4 ぜんそくの診察は、じっくりと問診することから始まります

 
患者さんが診察に見えた場合、私どもは、まず、喘鳴で夜眠れなかったり、どんなときに息苦しくなったかなど、じっくりとお話をお聞きします。患者さんが病院や医院を訪れる日中は、ぜんそくの発作は鎮まっていることが多いので、正しく症状を知るためには、患者さんから詳しくお話を聞くことが大切なのです。
 その後に、検査に入ります。患者さんの症状や年齢などによって検査の組み合わせは異なりますが、大抵は、まず、「気道過敏性テスト」を行ないます。これは、気道を収縮させるヒスタミンやアセチルコリンなどといった薬剤の濃度を薄めて、患者さんに直接吸入してもらい、気道がどれくらい収縮するかを調べるテストです。クスリが薄い段階で反応する方ほど気道の過敏性は高いわけですが、ぜんそくの患者さんの場合は、健康な方の100〜1000倍も敏感に反応します。
 同時に、気管支の狭くなった程度を測定する「肺機能検査」を行ないます。これは、オートスパイロメトリーという肺気量測定装置を使い、肺に出入りする空気の量や肺活量などを測定する検査で、ぜんそくなどの呼吸器の病気の検査では重要なものです。1秒間に吐き だす息の量を割りだすことで、気道の詰まり具合などが分かり、ぜんそくかどうかを知ることもできます。
 そのほか、呼吸器疾患には欠かせない「胸部X線検査」で、気管支にできるガンの有無を調べたり、肺結核や肺炎といった、ぜんそくに似ている症状を持つ病気との鑑別を行ないます。
 また、アレルゲンと結びつく抗体の量を調べる「血液検査」や、アレルゲンのエキスを肌に直接つけて影響を見る「皮膚反応テスト」、痰の中に増えてくる好酸球(白血球の一種で、ぜんそくなどのアレルギー炎症の強さによって増加する)の数を調べる「喀痰検査」なども行ないます。

5 治療に大切なのは発作を起こりにくくすることです

 ぜんそくと診断された場合、治療はほとんどが長期的なものになります。ぜんそくが自然に治るケースは、成人の場合にはまれで、一割以下といわれていますから、気長に、根気よく治療を続けることが大切になってきます。
 最近の治療方針としては、これまで行なわれていた「起こってしまった発作を一時的に鎮める」治療ではなく、「発作の起こっていないときから気道の炎症を鎮めて、発作が起きないようにする」治療へと変わってきています。
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 ふだんから気道の炎症を鎮める方法としては、おもに吸入ステロイド薬を用いる療法が効果的です。吸入ステロイド薬は、肺の局所に直接作用して抗アレルギー作用を示して発作を起こしにくくするため、微量でも効果が高いクスリです。「ステロイド」というだけで不安を感じる方もいますが、吸入して、肺だけに作用するため、全身的な副作用の心配はほとんどありません。
 吸入ステロイド薬には、パウダー式とエアゾール式があり、エアゾール式には吸入器を口にくわえて吸うクローズマウス法と口から離して吸うオープンマウス法があります。それぞれに、吸入の仕方が異なるため(左図参照)、患者さんの症状やライフスタイルに応じて、どちらを処方するかを決めています。
 パウダー式およびエアゾール式のステロイド薬の吸入は、朝と夜の一日二回以上が原則です。一般的に、パウダー式はフルタイドやパルミコート、エアゾール式はキュバールやフルタイドエアーといったクスリを処方しています。(キュバールは、環境に配慮した代替フロンを用いたクスリです。)
 しかし、残念ながら、これらの吸入ステロイド薬には即効性はありません。先ほども申しましたように、これらは「起こってしまった発作を一時的に鎮める」ためのクスリではなく、「発作の起こっていないときから気道のアレルギー性炎症を鎮めて、発作が起きないようにする」クスリです。効果があらわれるまでには、少なくとも三〜四日かかります。ですから,毎日規則正しく、忘れずに続けて下さい。続けることで、QOL(生活の質)があがるばかりでなく、急な発作が起こらなくなり、健常な方とかわらない生活ができるようになるのです。 
急に激しい発作に見舞われてしまった場合には、一時的に症状を抑えることが必要です。衣服をゆるめてラクな姿勢をとり、即効性のある吸入気管支拡張薬や吸入β₂刺激薬(具体的には、サルタノールやメプチンエアーなど)と呼ばれるクスリを二十分おきに二噴射ずつ三回吸ってください。それでも,状態がよくならなかった場合は、すぐに病院へ行くことをおすすめします。とくに、過去にぜんそくの発作で入院したことがある方が、このような状態になったら、なるべく早く病院へ来てほしいと思います。
 また、苦しくて横になれない、話すことが出来ない、チアノーゼ(酸素欠乏の兆候で、唇や指などが紫色や黒っぽく見える状態)が出た場合は、躊躇せずに救急車を呼んでください。早めの処置と対応が、ぜんそく治療には何より大切になります。
 しかし、吸入気管支拡張薬や吸入
β₂刺激薬は、続けて使ったり、量が多くなったりすると、気管支の状態を悪くする恐れもあり、また場合によっては命を脅かすこともあるので、注意してください。
 平均的に見て、三年間、毎日朝晩二回、根気よく吸入ステロイド薬を続けた患者さんは、発作が次第に見られなくなります。しかし、発作が軽くなったからといって、吸入ステロイド薬を止めてしまっては意味がありません。止めてしまうことで、せっかくよくなった気管支が、またいつ狭くなり呼吸困難を招くか分からないからです。
 吸入ステロイド薬の他にも、テオフィリンや抗アレルギー薬などの飲み薬を飲んだり、ピークフロー(最大呼気流速度)メーターという簡単な器械を使って、自分の吐く息の速さを確認するのもよいでしょう。気道が狭くなれば、そのぶん抵抗が大きくなって、息を吐く早さが遅くなります。日に何回か息を吐く速さを知るだけで、発作を起こさないためのケアに役立ちます。
 ぜんそく日誌をつけたり、毎日の状態や発作の状態、吸入ステロイド薬の記録はもちろんのこと、ピークフロー値の変動も書きとめておくとよいでしょう。また、かかりつけのお医者さんをつくり、いつでも相談できる状況にしておくことや、「ACT(喘息コントロールテスト)」を使って、患者さんがご自分で、客観的にチェックすることも大切です。

 ぜんそくという病気は、内臓が壊れたり、ガン細胞にむしばまれてしまったというのとは違って、発作を抑えることができれば、普通の生活が送れる病気です。辛抱強く吸入ステロイド薬を続けているうちに、発作や症状がまったくでなくなる方もかなり多くいますし、残りの大部分の方も、日常生活が差し障りなく送れるようになります。
 重症の方にしても、今後、さらに効力のあるクスリが開発されるでしょうから、そういう意味では、ぜんそくは不治の病ではなく、将来が期待できうる病気なのです。

<ぜんそくに関する情報について>
下記ページよりご覧ください。
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Asthma Control Test(喘息コントロールテストについて)
ぜんそくについてのよくある質問
ぜんそく治療について
イラストで見る気管支喘息の病態
ぜんそくについて