糖尿病の合併症−そこにあるリスク
 
 
監修/伊藤 裕
慶應義塾大学医学部内科 教授


血糖コントロールを怠ると・・・・
   
 

 2型糖尿病は、運動療法や食事療法、薬物療法などで血糖値を正常にコントロールすることが重要です。
 
自覚症状がないからといって食べ過ぎたり、運動不足になったり、薬の服用方法を守らなかったりして、良好な血糖コントロールが持続できなくなると糖尿病が進展するばかりではなく、さまざまな合併症が出現します。


糖尿病の合併症とは
 
   糖尿病の合併症は、毛細血管を中心に生じる細小血管障害と、比較的太い血管に起こる大血管障害に大別することができます。
 三大合併症として知られる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」は、いずれも細小血管障害であり、糖尿病発症後10年前後の経過を経て、出現すると考えられています。
 一方、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となる動脈硬化は大血管障害にあたり、境界型糖尿病と呼ばれる糖尿病予備軍の段階から発症・進展することがわかっています。

 
 


細小血管障害=糖尿病網膜症=
 
症状
   初期のうちは自覚症状がありません。ある程度進展すると、目のかすみ、視力障害、眼底出血による突然の視力低下などが起こり、放置すれば失明することもあります。
 
  原因
   網膜(黒目から入った光が像を結ぶところ)の毛細血管に、高血糖による傷害が起こって出血や虚血(きょけつ:組織や臓器に十分な血液が流入していない状態)を生じ、進展すると眼球の形を保っている硝子体(しょうしたい)の内部に出血する場合や網膜剥離(もうまくはくり)を起こします。
 
  治療
 初期の段階では血糖を正常にコントロールすることで改善されますので、検診で糖尿病と診断された場合、内科はもちろん定期的に眼科を受診してください。
 失明を防ぐために光凝固法、レーザー凝固法、冷凍凝固法などで網膜症の進展を遅らせることができます。硝子体出血と網膜剥離が生じた場合には、硝子体手術を行うことがあります。
   また血圧が高い場合は血糖コントロールと共に厳格な降圧療法も必要となります。


細小血管障害=糖尿病腎症=
 
  症状
 

 初期の段階では無症状です。ある程度まで進展すると軽い蛋白尿(微量のアルブミン尿)がみられるようになり、悪化するにしたがって尿中の蛋白量が増加していきます。
  また、血液をろ過して尿をつくる腎臓の働きもしだいに低下し、腎不全にまで進展すると血液透析による治療が必要になります。
 
血液透析の原因疾患の第1位は糖尿病腎症です。

 
  原因
   腎臓で血液をろ過して尿をつくるのは、腎糸球体(じんしきゅうたい)という毛細血管の塊のような組織です。この毛細血管が高血糖により網膜症と似た傷害を受け、腎機能障害が引き起こされます。
 
  治療
   腎症の進展を遅らせることが治療の目標となります。厳格な血糖コントロールと、血圧を130/80 mmHg未満に管理することが重要です。
発症初期では、「アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬」や「アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)」が蛋白尿の進展および腎機能低下の抑制に有効とされています。
尿蛋白が持続的に陽性になると、蛋白制限食を開始して、尿蛋白の減少および腎障害の進行抑制をはかり、腎不全への進展を遅らせます。
血圧も125/75mmHg未満と厳しい管理が必要になります。
腎不全になると、数年の経過で尿量の低下がみられるようになり、尿毒症、全身浮腫などが出現し、最終的には血液透析を行うことになります。


細小血管障害=糖尿病神経障害=
   
  症状  
   神経障害の症状は、障害の起こっている神経によって特徴があります。
  知覚神経障害
 
 手足、特に足先のしびれ、冷感、痛み、感覚鈍磨などが起こります。
  運動障害
 
 大腿部の筋萎縮、筋力低下がしばしばみられます。また、外眼筋麻痺、顔面神経麻痺なども起こります。
  自立神経障害
 
 起立性低血圧(たちくらみ)、異常発汗(食後)、胃のもたれ、悪心・嘔吐、便秘、下痢、動悸、尿閉、勃起機能不全、無痛性心筋梗塞などが起こります。
   
  原因  
   高血糖によって引き起こされる神経細胞の代謝障害(ソルビトールという物質の異常な産生など)、および神経細胞に栄養を送る毛細血管の循環障害(細胞に十分な酸素を送れなくなる)などが原因になると考えられています。
 糖尿病患者の40%が何らかの神経障害を持っているといわれています。
   
  治療  
   軽症であれば、血糖コントロールをきちんと行うことで改善が期待できます。
 一方、知覚神経障害は、ケガや火傷などに対する感覚を鈍くさせるため感染や壊疽(えそ)が起こる原因となり、さらにこれらの治療を必要とする場合があります。


大血管障害
   
   糖尿病と診断される前から食後高血糖が起こり、動脈硬化を発症・進展させていることがわかっています。
 この動脈硬化が脳の血管で進展すると脳梗塞に、心臓に栄養を送る冠動脈で進展すると狭心症や心筋梗塞に、足の血管で進展すると閉塞性動脈硬化症になります。
 
  糖尿病による大血管障害の特徴
 
糖尿病患者は、糖尿病がない場合に比べて2〜4倍脳梗塞が多く、また若い年代で発症することがわかっています。
   
 
心臓
神経障害などを伴うため無痛性の心筋梗塞が多くみられます。
最近日本人の発症頻度の上昇が問題となっています。

   
 
閉塞性動脈硬化症は、健康な人に比べて3倍多く発症します。
   
  治療  
   糖尿病と診断される前段階、食後高血糖が現れている時期から食事療法や運動療法を開始すると動脈硬化の進展を防ぐ効果があります。
 また、動脈硬化の進展予防には、糖尿病の治療だけでは不十分とされ、血圧やコレステロールに関しても、しっかりとコントロールすることが必要になってきます。このため糖尿病患者は、狭心症や心筋梗塞、脳血管障害を発症していなくても、発症した場合と同じように治療することになります。
 動脈硬化の進展を防ぐ意味で血圧は130/80 mmHg未満、血清脂質はLDL−コレステロール値120mg/dL未満(心筋梗塞を起こした人では100mg/dL未満)、と正常な人の上限値よりも厳しいコントロール目標値が設定されています。
 薬物療法においても、食後高血糖を改善するような薬の選択と厳格な血糖コントロールが動脈硬化の進展を防ぐ上で重要です。


糖尿病合併症のリスクを回避するために
 
   2型糖尿病は、予備軍の時代から動脈硬化が発症・進展します。糖尿病と診断されても自覚症状がないからと治療を怠れば、多くの場合、10年前後で神経障害、網膜症、腎症を発症します。
 一方、食事療法、運動療法、薬物療法で適切な血糖コントロールを続ければ、普通の人とほとんど変わらない生活を送ることができます。
 糖尿病の治療では、できるだけ初期の段階で血糖コントロールを開始することが大血管障害や細小血管障害といった糖尿病合併症のリスクを回避する上で重要です。


制作:株式会社ライフメディコム/情報提供:三和化学研究所

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