糖尿病と薬物療法
 
 
監修/伊藤 裕
慶應義塾大学医学部内科 教授


食後高血糖に空腹時高血糖が加わって「糖尿病」と診断される場合がほとんど
  2型糖尿病の診断には、「空腹時血糖値が126mg/dL以上」「随時血糖値または75gブドウ糖負荷試験の2時間値が200mg/dL以上」という基準があります。
 糖尿病と診断され、食事療法と運動療法を行っても血糖値が下がらない場合、さらに薬物療法を加えた血糖コントロールが必要となります。
 
ここで、「糖尿病」になってしまうまでのステップを整理してみましょう。
 
加齢による基礎代謝が低下
過食運動不足によるエネルギー過剰供給が重なる
エネルギー過剰となった細胞は余分な糖を取り込まなくなり、インスリン抵抗性となる
膵臓(すいぞう)は糖を取り込ませようとインスリン分泌を増やす
糖の供給過剰とインスリン抵抗性の悪循環が起こる
肝臓でもインスリン抵抗性が進み、食後の糖の放出抑制と糖の取り込みが不十分になり、食後高血糖が現れる
食後高血糖により膵臓も障害され、膵臓のインスリン分泌能力が限界になるとインスリン分泌が低下する
インスリン分泌の低下による、空腹時の糖の取り込みが低下し、血糖値が上昇する
空腹時血糖が上昇し、126mg/dL以上になると「糖尿病」と診断される


薬物療法
  薬物療法は、血糖値をできるだけ正常な範囲に維持する血糖コントロールが目標です。
 薬物療法には、「経口血糖降下薬」と「インスリン注射」があります。インスリン注射は、基本的に「膵臓からのインスリン分泌がほとんどない場合」に行われますが、「膵臓を一時的に休ませる」ことを目的に比較的短期間実施する場合もあります。
 膵臓からのインスリン分泌が保たれている場合は、主に経口血糖降下薬の内服を行います。
 
経口血糖降下薬の種類
血糖値を全体的に下げる薬
「SU薬」(スルホニル尿素薬)
インスリンを分泌する膵臓のβ細胞に直接作用してインスリン分泌を促す薬です。
「BG薬」(ビグアナイト薬)
肝臓でブドウ糖が新たに作られるのを防ぎます。また、筋肉のブドウ糖利用を促進させます。
「インスリン抵抗性改善薬」
主に脂肪細胞に作用して、筋肉などのインスリン抵抗性を改善して、インスリンの作用を高める薬です。

 主に食後高血糖を改善する薬
 主に食後の血糖値を下げることで、全体の血糖コントロールをよくする薬です。
「α-グルコシダーゼ阻害薬」
食事に含まれているでんぷんや糖質の分解を抑えて、ブドウ糖の吸収を遅らせることで、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。
「速効型インスリン分泌促進薬」
SU薬と同じように膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促しますが、薬の効果はすぐに現れ、短時間しか作用しません。


動脈硬化の予防には食後高血糖をしっかりコントロール
 
ここではα-グルコシダーゼ阻害薬について少しくわしく説明してみます。
 
 糖尿病の治療は、血糖値を正常範囲に維持して合併症を防ぐことが目的です。合併症には、腎症や網膜症、神経障害以外に動脈硬化の進展による脳卒中と心筋梗塞があります。
 動脈硬化は、特に食後高血糖の段階からすでに進展することがわかっています。薬物療法では、食後高血糖を改善する血糖コントールが動脈硬化の進展を防ぐためにも重要です。
 食後高血糖を下げるには、速効型インスリン分泌促進薬とα-グルコシダーゼ阻害薬が用いられます。速効型インスリン分泌促進薬は膵臓を刺激してインスリン分泌を促しますが、α-グルコシダーゼ阻害薬はむしろ食後のインスリン分泌は少なくて済むため、両方の薬が併用される場合もあります。


α-グルコシダーゼ阻害薬の血糖降下作用
 
 食事に含まれるでんぷんや糖質は、胃から小腸に入るまでに細かく消化され、最後にα-グルコシダーゼという消化酵素で小腸から吸収できる形の単糖類(ブトウ糖など)に分解されます。
 小腸から吸収されたブドウ糖は、門脈という血管を通って肝臓に入ります。
 正常では、ブドウ糖が門脈に入ると膵臓から瞬時にインスリンの追加分泌が起こり、これによって、肝臓はブドウ糖の放出を抑え、取り込みを行います。
  肝臓を通過して筋肉に送り込まれたブドウ糖は、インスリンによって筋肉細胞に取り込まれるため、食後の血糖値は、140mg/dLを超えることはありません。
 糖尿病では、ブドウ糖が門脈に入ってもインスリンの追加分泌が十分ではないため、肝臓からのブドウ糖の放出は抑えられず、また肝臓へのブドウ糖の取り込みも低下したままなので、大量のブドウ糖が体の隅々にまで流れ込んでしまいます。
 α-グルコシダーゼ阻害薬は、糖質を分解するα-グルコシダーゼの働きを阻害しますので、小腸からゆっくりとブドウ糖の吸収が行われます。このため、食後の血糖値は緩やかに上昇するようになり、インスリンが遅れて追加分泌されても効率的に血糖値を下げる結果になります。
 
現在、α-グルコシダーゼ阻害薬にはアカルボース、ボグリボース、ミグリトールの3種類があります。


α-グルコシダーゼ阻害薬の比較
  どのα-グルコシダーゼ阻害薬も、たくさんの量の薬を服用すればそれだけα-グルコシダーゼの働きを抑えることができます。
 しかし、血糖降下作用とは裏腹に大腸まで未消化の糖質が移動してお腹に不快な症状が現れますので、食後高血糖を十分に下げようとたくさんの量の薬を服用すると、例えばお腹の張りが我慢できずに、服用できなくなることがあります。
 アカルボース、ボグリボース、ミグリトールのなかで、ミグリトールはブドウ糖の吸収が最も盛んな小腸上部で薬の効果を十分に発揮したあと、小腸下部では薬物自身が吸収されて、薬の効果が少し弱くなるため、食後血糖降下作用が強い割には比較的、不快な消化器症状が少ない薬剤だといわれています。


食後高血糖改善薬による薬物療法のポイント
  薬物療法は、あくまでも食事療法・運動療法をきちんと守った上で行う治療です。薬を服用しているからといって勝手に食事を増やしたり、運動を中止したりしないでください。
 
薬の服用方法は、医師の指導に従ってしっかり守ってください。
α-グルコシダーゼ阻害薬や速効型インスリン分泌促進薬は、食事の直前に服用しないと効果を最大限に発揮できません。また、速効型インスリン分泌促進薬を服用した後、すぐに食事を取らないと「低血糖」が起こることがあります。
薬の服用を忘れたからといって1度に2倍の量を服用することは絶対にしないでください。
α-グルコシダーゼ阻害薬を単独で服用している場合は低血糖の危険性はほとんどありませんが、他の薬との併用で「低血糖」が起こったときは、必ずブドウ糖、あるいはブドウ糖の入ったジュースなどを摂るようにしてください。ブドウ糖が手元にない場合は、とりあえずショ糖を摂って応急処置し、できるだけ早くブドウ糖を摂ってください。
他の薬を服用する場合は、必ず医師に糖尿病の薬を服用していることを告げてください。
 
 
低血糖とは
 
 低血糖は、血糖値が70〜50mg/dL以下になった状態をいいます。
 血糖降下薬の作用が強く現れた場合や食事時間の遅れ、運動のしすぎなどで起こることがあります。
 ふるえ、動悸、発汗、脱力感、目がかすむなどの症状がみられます。
 特に血糖値が50mg/dL以下の重症の場合は、けいれんを起こすなど、昏睡状態に陥ることもあり、注意が必要です。
 
規則正しい生活を心がけましょう
  不規則な生活は、予想もしないような高血糖を招くことがあります。また、急な低血糖が現れるなど、糖尿病の患者さんには非常によくありません。


制作:株式会社ライフメディコム/情報提供:三和化学研究所

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