老いは血管から?!動脈硬化と糖尿病
 
 
監修/伊藤 裕
慶應義塾大学医学部内科 教授


糖尿病の現在のリスク
  糖尿病の三大合併症として知られている糖尿病腎症や網膜症、神経障害などは、いずれも細い血管の障害から起こる病気で、高血糖を長期間放置すればいつかは発病し、治療を怠ればどんどん進行します。
 一方、三大合併症よりも早い時期に、心臓の冠動脈や脳の動脈といった比較的太い血管で起こるのが「動脈硬化」です。

 


動脈硬化はなぜ怖い
  人は、血管から老いると言われます。そのくらい血管の状態はその人の肉体年齢を表しますが、糖尿病になると肉体年齢以上の深刻な血管の老化が起こります。血管の老化とは、血管壁が厚く、また硬くなって柔軟性が失われ、血液の通り道が狭くなる現象で、これが「動脈硬化」です。糖尿病に伴う動脈硬化は心臓や脳の血管を容易に詰まらせ、「心筋梗塞」や「脳梗塞」の大きな原因となって生命を脅かすことになります。


動脈硬化で血管の詰まりが進行する
 
 健康な血管では、血液の流れる内側の層を覆う血管内皮細胞が血管壁の柔軟性や、血管の収縮・拡張などをコントロールしています。
 動脈硬化が進むと血管壁に「プラーク」といわれる異常な組織が形成されるようになります。
 プラークの形成は、血液中の余分なコレステロールが血管内皮細胞の隙間を抜けて血管の壁に入り込むことから始まります。
 次の段階では、血管壁の中に入ったコレステロールを処理するために血管の中を流れている白血球が血管の壁に入り込み、貧食細胞である「マクロファージ」に形を変え、血管壁に溜まったコレステロールを取り込み、消化します。マクロファージは、たくさんのコレステロールを取り込んだ結果、破裂して死んでしまいますが、血管壁内にはコレステロールに由来する脂質とマクロファージの残骸が蓄積され、また、中膜の血管平滑筋細胞も増えてきます。こうしてプラークは大きくなり、血管壁は膨らみ、血液の通り道は細く狭くなります。
 プラークが形成される過程で、プラーク表面の血管内皮細胞にもさまざまな障害が起こり、正常な機能を果たすことができなくなって、血栓(血管を詰まらせてしまうような血の塊)ができやすい状態になります。
 何らかの刺激でプラークの表面にさけ目が入ったり、プラークそのものが壊れたりすると、そこに血小板が集まって血栓をつくります。プラークの中のマクロファージが多いほどプラークが破れやすいことが知られています。
 


 
 健康な血管であれば、血栓をつくる働きとともに血栓を溶かす働きも備えられているため、血栓ができても血管が詰まるようなことは起こりにくくなっています。
 一方、動脈硬化の起こっている血管では、血栓を溶かす働きが低下しているため血管は詰まり、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまいます。
 最近では、動脈硬化を促進させる悪玉として「食後高血糖」が非常に注目されています。


食後高血糖のリスク
  
  糖尿病が疑われる(糖尿病型)と診断されるのは『空腹時血糖値が126mg/dl以上、またはブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間後の血糖値が200mg/dl以上』とされています。一方、空腹時血糖値が正常域や境界域にある場合でも食後の血糖値だけが上昇する「食後高血糖」の時期があることがわかっています。

 
 さらに、食後高血糖が動脈硬化を促進させ、心筋梗塞発症の可能性を高くしていることが指摘されています。
 
  心筋梗塞は、心臓に酸素と栄養を送る冠動脈の動脈硬化が進み、血管が詰まることで起こります。食後高血糖は、冠動脈の動脈硬化を急激に進めることが明らかにされています。
 「不安定狭心症(心筋梗塞を起こしやすい狭心症)」や、「急性心筋梗塞」は「急性冠症候群」といわれます。
 急性冠症候群の患者さんの約3割に食後高血糖がみられ、糖尿病の人まで含めると5割から6割に達することが報告されています。


日本人のインスリン分泌の特徴は、食後高血糖を起こしやすい?!
  日本人には、「食後のインスリン分泌が生まれつき低く、かつ遅れるタイプ」が多いのが特徴といわれます。このような人でも、糖の供給と消費のバランスが取れていれば、少しのインスリンを効率的に使って普通の人と同じように糖をコントロールすることができます。
 一方、食事のとりすぎや運動不足で糖の供給過剰や処理能力の低下が続くようになると、少しのインスリンでは糖のコントロールが不十分となり、食後直ちに生じる高血糖に対応できなくなります。こうして起こる食後高血糖に対し、膵臓からは必要以上のインスリンが遅れて分泌されるようになります。
 こうして起こる「高インスリン血症」は肥満か高血圧、高脂血症など生活習慣病の集合をすすめ、動脈硬化をさらに促進します。


食後高血糖はいつから始まるのでしょうか
  ブドウ糖負荷試験(OGTT)の経過観察を長年行ってきた先生によれば、ブドウ糖負荷試験2時間値の上昇は、糖尿病発症の約10年前からみられるといわれます。

 
 また、空腹時血糖値は、糖尿病を発症する1年前であってもほとんどが110mg/dl以下であったと述べられています。
 
 糖尿病と診断された人は、診断される以前に最長10年間という食後高血糖の期間があり、この間にも動脈硬化は進行し続けていることになります。
 現在では、空腹時血糖値は正常域に近いけれども食後の高血糖がみられる状態を「早期糖尿病」として捉え、この時期から積極的に治療を行うことが重要と考えられるようになってきました。
 


食後2時間血糖値とブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値の違い
  食後2時間値は、糖質、脂質、タンパク質を含む日常の食事を食べはじめてから2時間後の血糖値です。
 OGTT2時間値は、75gのブドウ糖を飲んで2時間後の血糖値になります。
 食後2時間の血糖値はOGTT2時間値に比べると20mg/dL程度、低くなるといわれます。また、早期あるいは軽症の糖尿病では実際の食事では2時間よりもっと早い時間に血糖値のピークがきている場合が多く、食後2時間値が正常でも食後1時間が高い場合がありますので注意が必要です。


 


これからは食後の血糖値を測定してもらうことが大切
  日本人を対象とした「久山町研究」では、40歳以上でブドウ糖負荷試験を行うと、男性の60%、女性の50%が境界型および糖尿病型に入ったという結果が出ています。
 家族に糖尿病がみられる場合、あるいは肥満、高血圧、高脂血症がある場合は、食後1〜2時間の血糖値を調べてもらうか、ブドウ糖負荷試験を受けて、食後高血糖の有無を確かめることが心筋梗塞や脳梗塞の防止に重要です。
 もし、食後高血糖が発見されたら、それが10年前から続いているものか、あるいは1ヵ月前に起こったものか、誰にもわかりません。したがって、10年前から続いているものとして対処する必要があります。
 空腹時血糖値に異常がなく、食後高血糖値だけに軽い異常がみられる時期は、まだ糖尿病への進行を抑えることが可能です。動脈硬化の進行を防止するだけではなく、糖尿病の合併症である網膜症や腎障害、神経障害の危険を回避するためにも積極的な食後高血糖への取り組みが大切です。


制作:株式会社ライフメディコム/情報提供:三和化学研究所

>> ご利用規約
Copyrights (C) 2006-2007 SANWA KAGAKU KENKYUSHO CO.LTD All rights reserved.