健康診断―結果でわかる糖尿病リスク
 
 
監修/伊藤 裕
慶應義塾大学医学部内科 教授


健康診断の結果からわかること
 
 健康診断は、今病気にかかっていないかを確認するだけではなく、将来の病気の可能性を小さくすることも目的のひとつです。
 予備軍を含めると1600万人を超えるといわれる日本の糖尿病人口、その1人になってしまう危険性は、健康診断の数値から予測することができます。
 糖尿病の目安となるのは、第一に血糖値ですが、他にも血液検査で調べるHbA1c(ヘモグロビン エイ ワンシー)、加えて身長、体重から計算するBMI(ボディ・マス・インデックス=体格指数)も参考になります。
 また、内臓脂肪の蓄積による肥満をもとに、軽い高血糖、高血圧、高脂血症などが重なって起こっている病態は、「メタボリックシンドローム」といわれ、心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすいだけでなく、将来的に高い確率で糖尿病になることがわかっています。
 


まずは身長と体重の確認−BMI「27」以上は、糖尿病の発病率が2倍!
   現在、標準体重は<標準体重=身長(m)の2乗×22>という数式で計算されます。「22」という数値は疫学調査から明らかにされたもので、<体重(kg)÷身長の2乗>が「22」のとき、病気になる確率が最も低いという結果から導き出されました。
 BMIは<BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗>という数式で求めますが、「25」以上が肥満に当たります。肥満は、肥満度 I 〜 IV に分けられます。
BMIが「27」以上になると糖尿病の発病率が2倍になるという関係も明らかにされています。
 

肥満度 I 25〜29.9 肥満度 II 30〜34.9
肥満度 III 35〜39.9 肥満度 IV 40以上
 


血糖値と糖尿病
   私たちの生命を維持するエネルギー源となるのは、食事から入ってくる糖(ブドウ糖)です。糖は血液によって体中の細胞に運ばれます。血液中の糖を「血糖」といいますが、糖尿病のなかで、一般に認められる2型糖尿病は、この血糖が異常に増加している状態が慢性化した生活習慣病のひとつです。
 細胞が血糖を取り込む時に働くのが「インスリン」というホルモンです。インスリンは膵臓から分泌されます。
 食事などで血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌され、筋肉などの細胞に糖が取り込まれます。逆に、血糖値が低下すると肝臓から糖が血液中に放出され、常に一定の血糖値が維持されます。
健康な場合は血液から供給される糖と、細胞が消費する糖のバランスがとれています。
 糖尿病は、消費に対して糖の供給過剰が続くことで起こってきます。糖の供給過剰が長く続くと、細胞はインスリンの働きに抵抗して、血糖を取り込まないようになり、血糖値は上昇します。このとき膵臓は、さらにインスリンの分泌量を多くして血糖を取り込ませようとします。これが「インスリン抵抗性」といわれる状態です。
 日本人の膵臓は欧米人と比較して弱いので、少しのインスリン抵抗性でもそれに見合うだけのインスリンの分泌ができずに、糖尿病になりやすい民族だと言われています。両親が糖尿病の人は特に気をつける必要があります。
 


血糖値やHbA1cによる糖尿病の診断
 
『HbA1c(ヘモグロビン エイ ワンシー)は、赤血球の成分ヘモグロビンにブドウ糖が結合したもので、過去1〜2ヶ月間の血糖値の指標となります。この割合が高いほど、過去1〜2ヶ月間の血糖値が高かったことを示します。健康な人では、4.3〜5.8%とされます。』
 
『ブドウ糖負荷試験(OGTT)とは、空腹時に75gのブドウ糖を飲み、30分、60分、120分に採血して血糖値や血中のインスリン値を測る精密な検査です。糖尿病が疑われる場合や糖尿病の治療方針を決める場合に実施されます。』
 
 血糖値は食事の前後で大きく違ってきます。健康診断の場合、朝食を摂らずに検査を受けるため、空腹時の血糖値を測定することになります。一方、特に食事からの時間を決めずに測定する場合を「随時血糖値」といいます。
 空腹時血糖値が126mg/dLを超えていた場合、あるいは随時血糖値が200mg/dLを超えていた場合は「糖尿病型」ですので、もう一度検査する必要があります。同時にHbA1cの値が6.5%以上であれば糖尿病の疑いが濃厚ですので、必ず医師の診察を受けましょう。
 


空腹時血糖もHbA1cも異常なし!といって安心するのは禁物です
   糖尿病を疑う検査値として、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上という基準があります。実は空腹時血糖が100mg/dL、あるいはHbA1cが5.5%を超えている人のほとんどがブドウ糖負荷試験2時間値200mg/dL以上の「糖尿病型」、あるいは140mg/dL以上の「境界型」なのです。しかも、境界型の時期から血管はダメージを受けていることが明らかにされています。
 


なぜ食後だけの軽い高血糖を見逃すと怖いのでしょうか
   少し肥満気味だけど、空腹時血糖値が126 mg/dL未満だから糖尿病ではないと安心していると、体の中ではとんでもない変化が起こっています。それが、食後の血糖値のみが高い、「食後高血糖」という状態です。
 健康な人では、食後直ちにインスリンの追加分泌が起こり、血糖値はすみやかに低下します。一方、生まれつきインスリンの分泌が遅い人で、過食や運動不足のためにインスリン抵抗性の状態になっている場合、食事による糖の流入に体の対応が追いつかず、一過性ですが「グルコーススパイク」と呼ばれる急激な血糖の上昇が起こります。グルコーススパイクは、膵臓を刺激して、さらにインスリン分泌量を上昇させ、高インスリン血症(血液中のインスリンが異常に多い病気)を引き起こします。グルコーススパイクや食後の高インスリン血症は直接血管に作用したり、肥満を助長することで動脈硬化の進展を促すことが知られています。
 食後高血糖は、ブドウ糖負荷試験2時間値で検査することができます。実際に、空腹時血糖値が正常でもブドウ糖負荷後2時間の血糖値が140mg/dLを越えると死亡率が2倍になるという調査結果がでています。
 
 


内臓肥満が諸悪の根源
 
 
肥満により動脈硬化を起こしやすくなっている病態が、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)です。メタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪の蓄積を示すウエスト周囲径が重要です。
   過食と運動不足が内臓脂肪の蓄積を引き起こし、これが引き金となって食後高血糖、高血圧、高脂血症が積み重なり、心筋梗塞や糖尿病などがドミノ倒しのように起こってくる怖い状態です(これがメタボリックドミノといわれます)。
健康診断でメタボリックシンドロームと指摘された人は、過食と運動不足を解消する必要があります。
 


食後高血糖の目安
   食後高血糖は、ブドウ糖負荷試験で検査することができますが、自宅で簡単に食後高血糖を見つける方法があります。健康診断での空腹時の検尿では尿糖の異常が検出されなくても、食後第1回目の検尿で尿糖陽性となる場合があり、これは食後高血糖が疑われます。家庭用尿検査試験紙は薬局で購入できます。
 
 食後尿糖が陽性だった人はブドウ糖負荷試験を受けてみてください。糖尿病の早期発見のチャンスです。
 糖尿病は早期発見し、適切な食事・運動療法をしっかり行うことで、その後の合併症の発症を防ぎ、健康な人と変わらない生活をおくることが可能な病気です。
 健康診断で糖尿病が疑われた場合、自覚症状が何もないからといってそのまま放置せず、一度は医療機関を受診されることをおすすめします。
 


制作:株式会社ライフメディコム/情報提供:三和化学研究所

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