アレルギー性疾患に隠れたこころの不調
 
 
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授


「なぜか治療への意欲がわかない」などのこころの不調を感じたら
 
「なぜか治療への意欲がわかない」などのこころの不調を感じたら アレルギー性疾患は、治療が長期にわたる慢性的な病気のひとつです。そのため、治療の見通しへの不安や生活の質(QOL:Quality of Life)の低下などから、大きなストレスを感じてしまう傾向がみられます。特にアトピー性皮膚炎では皮膚の赤みなどが気になり、外出するのが憂うつになってしまうことも。
 そのまま放っておくと抑うつ状態になり、治療への意欲が低下したり症状の悪化をもたらしたりする場合もあります。
 アレルギー性疾患に伴うこころの不調は、かかっている病気に隠れて気付かれにくく、患者さんが一人で悩みをかかえてしまうことも少なくありません。
 アレルギー性疾患の治療の過程で「なぜか治療への意欲がわかない」などのこころの不調を感じたら、まずは担当医に相談してみましょう。


こころの不調を伴いやすいアレルギー性疾患とは?
 
 アレルギー性疾患の中でも、アトピー性皮膚炎と喘息(ぜんそく)は、治療が長期にわたって肉体的な負担も少なくないことから、こころの不調を伴いやすいといわれています。アトピー性皮膚炎と喘息についての概要は次の通りです。

【アトピー性皮膚炎】
症 状 発疹、かゆみ など
原 因 主に、アレルギーの原因物質である抗原(アレルゲン)により引き起こされる。気温や湿度の変化、衣類などでこすれたときの刺激、ストレスなどが誘因となる
検査と診断 抗原を特定するために血液検査や皮膚反応検査を行う
治療法 ステロイド外用薬やタクロリムス水和物軟膏薬で炎症を抑える。
かゆみの強い場合は抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を服用する

【喘息】
症 状 喘息発作、せき、喘鳴(ぜんめい)(※1) など
原 因 気道(※2)が炎症を起こし、収縮することによって発症する。主に、アレルギーの原因物質である抗原(アレルゲン)によって引き起こされるが、風邪やストレスが誘因となる場合もある
検査と診断 抗原を特定するための血液検査や皮膚反応検査に加えて、スパイロメーター(肺活量計)を用いた呼吸機能の検査を行う
治療法 主に吸入ステロイド薬を使用し、気道の炎症を抑えて喘息発作を予防する。喘息発作が起こった場合には、気道を拡げて呼吸を楽にするためにβ2刺激薬を使用する。重症の喘息には、経口ステロイド薬を使用する
※1喘鳴・・・ゼイゼイ、ヒューヒューというような雑音のある呼吸
※2気道・・・気管支や肺など、呼吸するときの空気の通り道


アトピー性皮膚炎とこころの不調
 
 アトピー性皮膚炎によるかゆみのために、発疹患部位をかくことを「掻破行動(そうはこうどう)」といいます。掻破行動は、人間関係や仕事などのストレスによっても誘発されます。なかには、かゆくないにもアトピー性皮膚炎とこころの不調かかわらず、ストレスを一時的に解消するためにかき、その結果、症状が悪化してしまうケースも見受けられます。こうしたケースでは、症状の改善のためにストレスの除去が不可欠です。
 抑うつ状態の有無を診断するために「アトピー性皮膚炎用心身症尺度」という質問表を用いる場合もあります。また、アトピー性皮膚炎と抑うつ状態では、ともに睡眠障害が見受けられます。その特徴に違いがあり、前者はかゆみのために寝付けない入眠困難型が、後者は早朝に目が覚めてしまう早朝覚醒型が多いといわれています。そのため、アトピー性皮膚炎で早朝に目が覚めるという場合は、抑うつ状態を伴っている疑いがあります。


喘息とこころの不調
 
 患者さんの心理状態を把握するために「気管支喘息症状調査票」などの問診表を用いる場合もあります。問診表は点数化されており、点数が高いと抑うつ状態を伴っていると診断されます。特に、小児から喘息を発症し長い間患っている場合は、治療の見通しへの不安から抑うつ状態を伴う頻度が高いといわれています。また、抑うつ状態を伴う喘息では、喘息発作がないにもかかわらず、早朝覚醒型などの睡眠障害が起こる場合があります。


こころの不調を伴う場合の治療法
 
 まずはそれぞれの病気に適切な治療を行って、ストレスの軽減やQOLの向上を図ることが大切です。それでも効果がみられない場合は、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用した薬物療法を行います。SSRIは、第3世代の抗うつ薬で、精神を安定させる脳内物質(セロトニン)のバランスを整えます。比較的副作用も少なく、安全性も高いといわれているため、精神科や心療内科以外の医師でも使用しやすい薬剤です。そのため、皮膚科や呼吸器内科の担当医から心身両方の治療を受けることも可能です。必要に応じて精神科や心療内科などの専門医を紹介される場合もあります。
 また、アトピー性皮膚炎で抑うつ状態を伴うと、睡眠障害が強く現れる傾向にあります。睡眠が浅いと掻破行動が激しくなる恐れがあるため、ベンゾジアゼピン系短時間型睡眠薬を併用する場合もあります。ベンゾジアゼピン系薬は呼吸抑制作用もあるため、抑うつ状態を伴う喘息には、あまり使用しません。


日常生活におけるセルフケア
 
 アレルギー性疾患やそれに伴うこころの不調を改善するためには、日常生活におけるセルフケアも大切です。できることから始めてみましょう。

日常生活におけるセルフケア上手にストレス解消を
 不安によるストレスは、症状の悪化や抑うつ状態を招く恐れがあります。好きな音楽を聴いてリラックスするなど、上手にストレスを解消しましょう。規則正しい生活習慣を身に付けてストレス耐性を高めることも大切です。

周囲の方々に相談を
 一人で悩まず、信頼できる人に相談してみましょう。ほかの患者さんと交流がもてる勉強会などに参加するのもよいでしょう。人に話すことで気持ちが楽になったり、ほかの患者さんの体験や治療への取り組みを聞くことで治療への意欲がわいたりすることも。

症状日記をつけて
 掻破行動や喘息発作が起こるパターンを把握し、予防するためには症状日記が有効です。掻破行動や喘息発作が起こったきっかけや時刻、症状の強さなどについて記録しましょう。喘息では、ピークフローメーター(最大呼気流量計)(※)を使用して、起床時と就寝時に呼吸機能をチェックし、記録しておくとよいでしょう。
※ピークフローメーター・・・深く息を吸って一気に吐き出した時の最速値を測定する器具。手に持てるほどの大きさで、取り扱いは簡単。比較的安価で市販されている


ご家族や周囲の方々へ
 
 抑うつ状態を伴ったアレルギー性疾患の治療には、ご家族や周囲の方々の理解が必要です。次のことに注意して、適切な治療が行えるようサポートしましょう。

聞き役に徹して
 患者さんが自分の悩みや不安を打ち明けたときには、あれこれ質問したり意見を述べたりせずに、聞き役に徹して静かに耳を傾けましょう。

励ましは厳禁
 「頑張って」などの励ましは、かえって患者さんに負担をかけてしまいます。つらい気持ちを理解し、共感する言葉をかけ、気持ちを楽にしてあげるよう心掛けましょう。

ゆっくり休養できる環境づくりを
 仕事や家事・育児などは分担して、患者さんが気兼ねなくゆっくりと休養できるような環境を整えましょう。

服薬のサポートを
 自己判断による薬の中断や飲み忘れ防止のために、医師の指示どおり服薬しているかを確認しましょう。患者さんの服薬後の変化も観察し、医師に伝えましょう。

気長に見守って
 一見元気に見えても、精神面がまだ不安定だという場合も少なくありません。あせらず気長に患者さんを見守ってあげましょう。


編集:株式会社ライフメディコム
制作:エンパワーヘルスケア株式会社
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