監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
かぜでもないのに、突然くしゃみや鼻水がとまらない。鼻もつまる……。そんな症状が起こったら、
アレルギー性鼻炎
かもしれません。
アレルギー性鼻炎
は、アレルギー反応によって起こる鼻の粘膜の炎症です。
近年、
アレルギー性鼻炎
にかかる人の数は増加しており、日本人の5人に1人は、この鼻炎に悩まされているといわれています。
この病気が増えている原因には、気密性の高い居住環境によるハウスダスト
(※)
の増加、花粉の飛散量の増加、大気汚染、ストレス、食生活の変化などが挙げられます。
アレルギー性鼻炎
にいったんかかってしまったら、抗原(アレルギーを引き起こす原因となる物質=アレルゲン)との接触を絶つことが肝心です。
症状を改善するために、日々の生活を見直しケアを行いましょう。
※ハウスダスト…室内塵のことで、ホコリやペットなど動物の毛、ダニ、カビなど、アレルギーを引き起こすいくつかの抗原が混ざっています。
アレルギー性鼻炎
は、発作的に起こるくしゃみ、鼻水(さらさらした水のような鼻水)、鼻づまり(鼻閉)が繰り返し起こるのが特徴です。この鼻炎には、症状が1年中出る「
通年性アレルギー性鼻炎
」と、一定の季節に限って症状が現れる「
季節性アレルギー性鼻炎
」の2つがあります。また2つが同時に起こることもあります。
通年性アレルギー性鼻炎
の場合、冬に比較的強い症状が出ます。暖房で窓を閉め切っているため室内にハウスダストが飛び回り、さらに空気が乾燥することから症状が悪化します。合併症として、ぜんそくやアトピー性皮膚炎が起こることもあります。
季節性アレルギー性鼻炎
のほとんどは「花粉症」と呼ばれるもので、その発症時期は、原因となる植物の開花時期と一致しています。鼻の症状のほか、目のかゆみ・充血(アレルギー性結膜炎)、のどの違和感、皮膚のかゆみ・湿疹、咳、頭が重たい感じなどの症状が出ることがあります。
●
アレルギー性鼻炎を起こす抗原
アレルギー性鼻炎
の原因となる抗原のほとんどは、呼吸によって体内に入ってくる吸入性のものです。繰り返し抗原を吸い込むことでアレルギー反応が起き、鼻の不快な症状が現れます。
〈主な吸入性の抗原〉
●
アレルギー性鼻炎はかぜと間違えやすい?
アレルギー性鼻炎
の症状は、かぜの初期症状ととてもよく似ています。それぞれ治療法が異なるので、適切な治療を受けてください。
くしゃみ、鼻水などの症状がアレルギー性の反応であるかどうかを調べ、そうである場合は、アレルギー反応を起こしている抗原が何かを調べる検査を行います。
〈アレルギー性の症状であるかどうかを調べる検査〉
◆
問診
年齢、性別、職業、症状の種類、程度、発症年齢、発症時期、合併症、アレルギー既往歴、家族歴、治療歴と経過などを詳しく聞きます。
◆
鼻鏡検査
鼻の粘膜の色、腫れ具合、鼻水の分泌量などの状態を診ます。
◆
鼻汁中好酸球検査
アレルギー性鼻炎
の人に多く見られる「好酸球
(※)
」という細胞の数を調べます。
※好酸球…血液の中の白血球の一種。アレルギー反応に関与する細胞で、鼻水や痰の中に分泌されます。
〈原因となる抗原を調べる検査〉
◆
皮膚テスト
皮内テストとスクラッチテストの2種類があります。皮内テストは、問診の結果から推測される抗原の水溶液を前腕に皮内注射して、皮膚の赤くなった面積や状態を観察します。
スクラッチテストは皮膚を出血させない程度にひっかいて傷をつけ、そこに抗原をたらして反応を診ます。
◆
血清特異的IgE抗体
(※)
検査
採血をして抗原に反応するIgE抗体を調べる検査で、一度に多数の抗原を調べることが可能です。アレルギーの強さもある程度わかります。
◆
誘発テスト
抗原をしみ込ませたペーパーディスク(ろ紙)を鼻の粘膜において、アレルギー反応が現れるかどうかを調べます。但し、危険性もあり現在ではほとんど行われていません。
※IgE抗体…体内に入ってくる異物を排除する免疫のしくみに関係する抗体。原因となる抗原との接触を繰り返すうちにこの抗体が体内に蓄積され、一定量を超えるとアレルギー症状が起こります。
〈その他の検査〉
重症の
アレルギー性鼻炎
では、副鼻腔炎(蓄膿)の合併がないかどうかを調べるために、X線(レントゲン)撮影を行う場合もあります。
アレルギー性鼻炎
の治療法には、抗原の除去と回避、薬物療法、特異的免疫療法、手術療法があります。
アレルギー性鼻炎
になるかどうかは、その人自身の遺伝的な体質によるところが大きいため、完全に予防することは困難ですが、生活環境から原因となる抗原を取り除き、接触を避けることで症状を軽くできます。
1)居間、寝室などは毎日掃除する。
2)排気循環式の掃除機を用いて、1平方メートルにつき20秒以上の時間をかける。
3)布団、毛布などはよく日光にあてて乾燥させ、週に1度は掃除機をかける。但し、花粉症の場合は外に干さないことが重要。
4)防ダニの布団を使用する。寝具にはダニを通さないカバーをかける。
5)布製ソファ、カーペットの使用、畳はやめてフローリングにする。
6)部屋の湿度は50%、室温は20〜25℃に保つ。
1)花粉情報に注意する。
2)飛散の多いときは窓、戸を閉めて花粉を家の中に入れないようにする。
3)飛散の多いときの外出を控える。外出する場合はマスクやメガネを着用する。ニットなど花粉が付着しやすい衣服の使用は避ける。ツルツルした素材がお勧め。
4)帰宅時には玄関先で服や髪についた花粉を落とす。うがい・洗顔をし、鼻をかむ。
5)衣類の乾燥は乾燥機を使う。基本的には外に干さないことが重要。布団など外に干した場合は花粉をよく落としてから取り込む。
薬物治療は、最も一般的に行われている治療法です。抗アレルギー薬を基本に、必要に応じて症状を和らげる薬を併用します。
《抗アレルギー薬》
◇ケミカルメディエーター遊離抑制薬
鼻づまりを改善します。効き目が現れるのが遅く、1〜2週間は続けて飲む必要があります。使い続けることで症状が改善される率がさらに上昇します。
◇ケミカルメディエーター受容体拮抗薬
1)
第2世代ヒスタミン拮抗薬
(抗ヒスタミン薬)
症状全般を改善します。十分な効果を得るまで2週間程度を要します。初期に開発された第1世代ヒスタミン拮抗薬に比べ、眠気などの副作用が少なくなっています。
2)
トロンボキサンA2拮抗薬
鼻づまりをはじめ、くしゃみ、鼻水にも効果があります。血小板が固まるのを抑えるため、脳血管障害や虚血性心疾患の抗血栓治療などに使われる抗血小板薬、血栓溶解薬、抗凝固薬との併用には注意を要します。
3)
ロイコトリエン拮抗薬
鼻の粘膜の腫れを抑え、鼻づまりを改善するという点では、第2世代ヒスタミン拮抗薬よりも効果が早く現れます。
《ステロイド薬》
◇局所ステロイド薬(点鼻薬)・飲み薬
鼻粘膜の炎症を抑えるとともに、くしゃみ、鼻水、鼻づまりに優れた効果を示します。効果も比較的早く現れ、抗アレルギー剤の経口薬と併用することで症状はかなり抑えられます。
《自律神経作用薬》
◇α交感神経刺激薬
主として点鼻薬として用いられます。鼻づまりは速やかに改善されますが、続けて使用すると効果の持続は短くなり、かえって慢性的な鼻づまりを引き起こすことがあります。
薬で症状が改善しない場合に用いられる治療法で、原因となっている特定の抗原の抽出液を皮下注射します。低濃度・少量から始めて、徐々に濃度と量を増やし、その抗原に対する体の免疫機能を高めていきます。2〜3年間、定期的に抗原の注射を続けると約70%の人がよくなるといわれています。薬物療法のような対症療法とは異なり、現在のところ長期的な症状の改善、完治も期待できる唯一の方法です。
鼻腔の形に異常があって症状が改善されにくい人、薬物療法等では鼻づまりが治らない(鼻の粘膜の腫れがひどい)人には手術療法が効果的です。
手術の種類としては、鼻粘膜にレーザー照射してアレルギー反応を和らげるレーザー手術、鼻粘膜を切除する手術、電気で鼻粘膜を焼く手術などが行われます。特にレーザー手術は、出血もほとんどなく、痛みも少ないため、入院しない日帰り手術も可能です(但し1〜2年経つと鼻粘膜が再生され、効果が薄れる場合があります)。
日常生活の中で注意を払うことで、
アレルギー性鼻炎
の症状を改善するとともに、発症を予防したり悪化を遅らせたりすることが可能です。主な予防法は次の通りです。
◆
分煙・禁煙を徹底する
たばこの煙は鼻の粘膜を刺激し、症状を悪化させる原因になるので注意が必要です。職場や家庭で、分煙・禁煙を実践しましょう。
◆
ペットを室内で飼わない
犬や猫などの体にすみついたダニはアレルギーの原因になります。ペットは屋外で飼い、寝室に入れないようにしましょう。ペットの飼育環境を清潔に保つことも大切です。
◆
体に抵抗力をつける
十分な睡眠を取り、過労を避け、ストレスをためないことが大切です。体の抵抗力を高めるため、厚着や冷暖房に頼った生活を避け、適度なスポーツをするようにしましょう。
◆
バランスのとれた食生活を心掛ける
タンパク質や脂肪の摂り過ぎは控えてください。毎日のメニューにビタミンやミネラルをたっぷり含む野菜などを取り入れ、バランスのよい食事を摂る習慣をつけましょう。食品添加物を含む食品にも注意が必要です。
◎
花粉情報を以下のホームページからキャッチしておきましょう。
環境省花粉観測システム(はなこさん)
http://kafun.taiki.go.jp/
環境省花粉情報サイト
http://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/
環境省花粉症保健指導マニュアル
http://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/html/001.html
編集:株式会社ライフメディコム
制作:
エンパワーヘルスケア株式会社
ご利用規約
Copyrights ©2009 Empower Healthcare K.K. All rights reserved.