再発を繰り返す単純ヘルペス
 
 
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授


単純ヘルペスってどんな病気?
 
 「単純ヘルペス」は、私たち誰もがかかる可能性のある、ごくありふれた皮膚の感染症です。「単純ヘルペスウイルス」というウイルスが原因となって起こり、発疹や水ぶくれなどの症状が現れます。
 ウイルスには1型と2型の2種類があります。1型は口の周りや顔面など上半身に発症することが多く、2型は性器や下肢など主に下半身に症状が出るといわれています。このうち、口手鏡の周りにできるものを「口唇ヘルペス」、性器周辺にできるものを「性器ヘルペス(GH:Genital herpes)」と呼び、単純ヘルペスの中でも最も一般的な病気です。
 単純ヘルペスウイルス感染力が強く、しかも一度感染すると、症状は治まってもウイルスは体内の神経節(※)に潜り込み、一生そこに棲みついてしまいます。そのため、しばしば再発を繰り返します
 大切なのは、もし感染してしまった場合にも、症状を悪化させずに早期に治療すること、人にうつさないこと、そして再発を予防していくことです。

※神経節は、神経細胞が集まっているところです。

病気の特徴と症状は?
   
 単純ヘルペスに感染すると、発疹や水ぶくれなどの皮膚症状が現れます。初感染の場合は、高熱などの重い全身症状を伴うことがあります。その一方で、感染していても自覚症状がなかったり、症状がまったく出なかったりすることもあります。
 では、単純ヘルペスの中でも、最も一般的な口唇ヘルペス性器ヘルペスについて見ていきましょう。
口唇ヘルペス
 口唇ヘルペスの主な原因は単純ヘルペス1型ウイルスで、接触や飛沫(※)による感染が一般的です。
 初期症状としては、唇や口の周りの皮膚にピリピリ・ムズムズした不快感や痛がゆさを覚えます。その後、数時間から数日で患部に皮膚の赤みや水ぶくれができます。やがて水ぶくれは破れてかさぶたとなり、2週間程度で治ります。
 初感染時には、大きめ(直径5ミリ程度)の水ぶくれが多発し、熱が出たり、あごの下のリンパ節が腫れたりすることもあります。それに比べて再発の場合は、皮膚の赤みや水ぶくれの現れる範囲が狭く、症状も軽くてすみます。
発症と完治
※飛沫とは、くしゃみや咳(せき)などでだ液や鼻水が小さな水滴となって飛び散ることです。
性器ヘルペス
 性器ヘルペスは、性交渉による感染がほとんどです。感染してから2日〜12日の潜伏期間をおいて発症し、性器やおしりの周辺の皮膚に赤いブツブツや水ぶくれ、ただれができます。初感染の場合は、強い痛みや発熱を伴う場合があり、排尿や歩行が困難になることもあります。治療をきちんとすれば1週間程度で治ります。
 性器ヘルペスは主として単純ヘルペス2型ウイルスへの感染によって発症します。2型ウイルスは頻繁に再発を繰り返す傾向があります。ただ再発時には、小さな水ぶくれやただれができる程度の軽い症状ですむことが多く、それに気付かずに感染を拡げてしまうことがあるため注意が必要です。また、女性の感染率が男性に比べて高く、20代の女性に最も多いとされています。最近では性体験の低年齢化により、若年層の患者が増えています。
単純ヘルペスウイルスによるその他の感染症(主なもの)
ヘルペス角膜炎…目の角膜に感染します。目の痛み・涙目・目が赤くなるといった症状が出ます。何度も再発すると、重大な視力障害を引き起こすこともあります。
ヘルペス脳炎…発熱・意識障害・けいれん発作・幻覚などの症状が起こります。
新生児ヘルペス…母子感染などによって発症するもので、生後間もなく発熱、黄だん、呼吸障害などの症状が現れます。脳症などの後遺症が残ったり、死亡するケースもあります。

アトピー性皮膚炎の人は感染に要注意
   
 アトピー性皮膚炎の人は皮膚が弱いため、単純ヘルペスウイルスに比較的簡単に感染してしまいます。感染すると顔や身体などの広範囲に水ぶくれが現れ、ただれたような状態になります。特に初感染の場合は、ウイルスに対する免疫がないため重症化し、命に関わることさえあります。
 アトピー性皮膚炎の患者が単純ヘルペスウイルスに感染することで起こる合併症の代表的なものに「カポジ水痘様発疹症」があります。症状としては、広範囲にわたって顔や首などに小さな水疱ができ、リンパ節が腫れたり高熱が出たりすることもあります。アトピー自体の悪化との見分けがつきにくいことがあるので注意が必要です。

検査方法と診断
   
 「ヘルペスかな?」と思ったら、病院やクリニックでできるだけ早く受診しましょう。唇などの症状の場合は皮膚科へ、性器や下半身の場合は泌尿器科・産婦人科に行くことをおすすめします。
 単純ヘルペスは、唇や性器にできた水ぶくれなど皮膚の症状から診断することができます。症状が出ている現れている部分の皮膚や粘膜を綿棒でとって組織検査をすれば単純ヘルペスかどうかが簡単にわかります。
 その他、症状が出ていない場合、あるいは、初感染なのか再感染なのかといったことを判定するために血液中のウイルス抗体(※)を測定する検査もあります(これは主に皮膚科・泌尿器科、感染症内科などの専門医で受けることができます)。

※ウイルス抗体とは、リンパ球でつくり出される糖タンパク分子で、主に血液や体液の中に存在し、体内に侵入してきたウイルスに対処しようとするものです。

どんな治療をするの?
   
 現在の医学では、いったん体内に入った単純ヘルペスウイルスを完全に排除することはできません。しかし、薬を用いることによって、ウイルスの増殖を抑えることは可能です。適切な処置をするのが早ければ早いほど、症状は軽くてすみます。再発の前兆を感じたり、症状が出てきたりしたら、できるだけ早い時期に治療を始めてください。
 一般的な治療としては、抗ウイルス薬の外用薬や内服薬を用います。全身症状が現れるなどの重症例や免疫不全の人に対する治療では、入院した上で抗ウイルス薬の点滴静脈注射を行います。その際、細菌の二次感染を防ぐために、抗生物質を服用することもあります。
単純ヘルペスのための抗ウイルス薬
薬の名前 薬の形 使用法(※) 副作用
アシクロビル 経口薬・軟膏・点滴など 経口薬は1日5回服用 吐き気など胃腸症状
塩酸バラシクロビル

経口薬

1日2〜3回服用

同上

ビダラビン 軟膏 1日1〜4回、患部に適量を塗布または貼布 皮膚の刺激感、皮膚のかゆみや赤みなど
※症状の程度などによって、薬の服用回数は変わることがあります。

性器ヘルペスの再発を抑える療法について
   
 単純ヘルペスの中でも、特に「性器ヘルペス」は再発を繰り返すのが特徴です。この再発の頻度を少なくするために、症状が現れる前にウイルスの増殖を抑える治療が、最近になっ薬て日本でも行えるようになりました。「抗ウイルス薬」を毎日少しずつ飲むことによって、再発リスクを低下させる治療法で「再発抑制療法」と呼ばれています。「再発抑制療法」は、性器ヘルペスの標準的な治療法として、現在世界50カ国以上で認められています。
 この療法は、性器ヘルペスの再発を抑えるメリットに加え、パートナーへの感染率を下げることがわかっています。
 「再発抑制療法」は、おおむね年に6回以上再発する患者さんが対象となります。詳しくは医療機関(泌尿器科・産婦人科などの専門医)にご相談ください。


単純ヘルペスの予防と対策
 
 単純ヘルペスウイルスは人に感染する力が強く、人と人との直接的な接触のほか、タオルなどを介して感染してしまうことがあります。皮膚に傷や湿疹ができて抵抗力が弱まっていると、ヘルペスウイルスが侵入しやすくなるので注意が必要です。
 また、既にウイルスを持っている人は、身体の抵抗力が低下すると、体内に潜むウイルスが暴れ出し、再発しやすくなります。再発のきっかけとして考えられるのは、かぜ・性交渉・過労・ストレス・紫外線などです。
 単純ヘルペスの種類にかかわらず、再発のリスクを減らし、パートナーや他の人にうつさないためにも、予防を心掛けましょう。

再発を予防するために
   
ストレスや疲労をためない
 まず日ごろの健康管理を心掛け、ストレスや疲労をためないことが大切です。バランスのよい食事と十分な休息をとるようにしましょう。お酒を大量に飲むことも控えるようにしてください。

紫外線に注意する
 紫外線は口唇ヘルペスを再発させる可能性があります。海水浴やスキーなどで紫外線の強い場所に行くときには、日焼け止めを使う、帽子をかぶるなどの紫外線対策をしっかり行いましょう。

人にうつさないために
   
患部はいつも清潔に
 水ぶくれなど明らかな症状が出ているときはウイルスの量も多く、感染力の強い時期です。患部を触ったら、きちんと手洗いをしてください。水ぶくれを破ると症状が治まるのを遅らせるほか、細菌に感染したり痕が残ることもあります。患部を不潔にしないように十分に気をつけましょう。

直接の性的接触を避ける
 単純ヘルペスを発症しているときは、性的接触は避けるようにしましょう。
性器ヘルペスによる感染だけではなく、口唇ヘルペスの人とのオーラルセックスによって感染し、性器ヘルペスを発症することもあります。特にパートナーがウイルス抗体を持っていない場合には、重症化させる可能性があります。
 また、たとえ自覚症状がなくても、だ液や精液などにウイルスが排泄されていることがあり、キスやセックスでパートナーに感染させてしまうことがあります。前出の「再発抑制療法」を受けていても、感染リスクが完全になくなるわけではありません。パートナーとともに病気についての理解を深め、コンドームを使用することが、より確実な感染防止策だと考えられます。

新生児に触れる際の心掛け
 赤ちゃんは免疫機能が未熟なため、口唇ヘルペスなどができている間はキスは避けてください。患部を触った手で、赤ちゃんに触れないように注意しましょう。

身の回りのものは共用しない
 タオルの共用は避けましょう。コップやグラスなどの食器も、単純ヘルペスの症状が出ている間は、人と同じものは使わないようにしてください。


編集:株式会社ライフメディコム
制作:エンパワーヘルスケア株式会社
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