胃炎かな?と思ったら
 
 
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授


  胃はタフでデリケート
     胃は、心臓のように24時間活動しているわけではありませんが、肝臓や膵臓(すいぞう)などと違って私たちが直接存在を感じることができる臓器です。
 また、大きな悲しみや悩みに対して「胃の痛む思いをした」という言い方もあり、胃はストレスにも敏感です。
 胃はさまざまな飲み物や食べ物を受け入れるというタフな働きをする反面、喜怒哀楽など、感情の影響を受けやすいデリケートな臓器でもあります。
 胃の粘膜は、熱いもの、冷たいもの、すっぱいもの、辛いものなどの食事として入ってくる刺激に対して強い抵抗力を持っていますが、ある限界を超えると炎症を起こし、胃炎となります。
   
     胃の働きは、口で噛み砕かれた食物を一時的にたくわえて消化し、栄養を吸収しやすい状態に変え、小腸に送り出すことです。
 食物の消化には、胃壁(いへき)から分泌される胃酸が大きな役割を果たしています。
 胃酸は非常に強い酸(pH1〜2)で、その正体は塩酸です。胃酸は、食物と共に入ってきた細菌や微生物などを死滅させる殺菌の働きもしています。
 このように強い消化力を持つ胃酸を持ちながら、胃はなぜ自己消化されないのでしょうか。
    胃の防御を担う粘液
 胃には、胃酸に消化されない防御の仕組みも備えられています。その防御の仕組みで最も大切な役割を担うのは粘液です。粘液は、胃壁(いへき)の一番内側にある胃粘膜をおおって胃酸が直接胃壁に触れないようにバリアー機能を果たしています。
 また、胃粘膜には少しくらいの傷は自己修復する力がありますが、傷が大きくなりすぎるとその修復力だけでは間に合わなくなり、炎症が進んでしまいます。
 胃炎の初期は、胃粘膜がびらん(粘膜の表面がただれている)した状態です。
 胃炎が進行すると胃粘膜の修復力が低下するとともに粘液というバリアーが不十分になり、胃酸が直接胃壁に触れ、胃粘膜を消化して胃潰瘍(いかいよう)になってしまいます。
    ヘリコバクター・ピロリ菌
 胃酸という強力な消化液があるため、長い間、胃は無菌状態と思われていました。しかしこの定説を覆したのがバリー・マーシャルとロビン・ウォーレンという二人のオーストラリアの研究者でした。二人は1982年、胃にヘリコバクター・ピロリという細菌が生息することを発見、胃炎および消化性潰瘍の発生に関係することを発表し、2005年度のノーベル医学賞を受けることになりました。マーシャル博士は実際にピロリ菌を飲んで胃炎になることを証明しています。
 現在、ヘリコバクター・ピロリ菌は胃炎や胃潰瘍だけでなく、胃癌の発生にも関係していると考えられています。
   

  症状はいろいろ
     胃炎には急性胃炎と慢性胃炎があり、症状の現れかたが異なります。
   
急性胃炎 急性胃炎
みぞおち付近の痛み、胃が膨らむような不快感、むかつき、嘔吐、吐血、下血などが急激に起こります。 主な症状は、空腹時や夜間の胸やけ、食欲不振、食後のむかつき、胃のもたれなどですが、いずれも慢性胃炎に特有なものではなく、胃潰瘍や胃癌でも同様の症状がみられます。しかし、症状が全くみられないこともあります。
原因としては、暴飲暴食(特にアルコール飲料の飲みすぎ)、医薬品(非ステロイド系消炎鎮痛薬など)、化学的毒物、ストレスなどがあります。 現在、慢性胃炎の多くは、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が関係していると考えられています。
   

  急性・慢性胃炎の検査
    急性胃炎
 急性胃炎の場合、問診触診が中心となります。
痛みの程度や痛む場所、また症状がいつから現れたか、何をどのくらい食べたかなどを調べます。医薬品が原因となっていることも頻繁にあります。普段どんな薬を服用しているか、坐薬(ざやく)も含めて医師に正確に伝えることが重要です。
    内視鏡検査
内視鏡(胃カメラ)による観察で胃粘膜の状態を調べるとともに、胃潰瘍や胃癌のないことを確認します。
急性胃粘膜病変といって急激に症状が進み、潰瘍ができる場合や出血がみられることもあります。
    慢性胃炎
 問診や触診だけでは診断が難しいことが多く、内視鏡検査がポイントになります。
    内視鏡検査
胃粘膜の状態を直接観察するほか、生検(せいけん)といって内視鏡に付属した器具でごくわずかな胃の組織を採取して、詳しく調べることもあります。
   

  診 断
    急性胃炎
 内視鏡でみると胃粘膜にびらんや腫れ、発赤(ほっせき:毛細血管の一時的な拡張)などが観察できます。
    慢性胃炎
 進行すると胃粘膜の肥厚(ひこう)や萎縮(いしゅく)などがみられるようになります。
 胃粘膜が萎縮して胃壁が薄くなり、血管が透けて見えるのが萎縮性胃炎です。
 胃粘膜のびらんと修復が何度も繰り返されると、胃の運動機能も低下する場合があります。
   

  治 療
     胃炎の治療には、薬物療法、原因の除去、生活習慣の改善などがあります。
    薬物療法で使う主な薬の種類
 薬物療法では、急性・慢性にかかわらず胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、胃の運動機能改善薬が使われます。
   
胃酸分泌抑制薬 胃酸の分泌を抑える薬で、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(シメチジン、ファモチジン他)、プロトンポンプ阻害薬(ランソプラゾール、オメプラゾール他)などがあります。
胃粘膜保護薬 胃粘膜を保護して、胃粘膜の防御力や修復力を高める薬(スクラルファート、レバミピド他)です。
運動機能改善薬 胃の運動機能が低下している場合、胃の運動機能を促進する薬を使います。副交感神経刺激薬(塩化カルプロニウム他)、ドパミン受容体拮抗薬(メトクロプラミド他)などが使用されます。
    急性胃炎
 急性胃炎の治療では、特に原因の除去が大切です。ストレスや薬物など原因がはっきりしている場合、原因を取り除くだけで治ってしまうこともあります。
 吐き気や嘔吐がひどい場合は、絶食して点滴による栄養補給を行い、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬などで治療します。
 胃粘膜に出血がある場合は止血剤を用いますが、適切な治療により比較的早く治ります。
    慢性胃炎
 胃酸の分泌を抑制する薬が中心となりますが、胃粘膜保護薬や胃の運動機能改善薬を併用することもあります。
   

  生活習慣の改善
     過労やストレスを避けて安静にすることが大切です。
 暴飲暴食を避けるとともに、胃酸の分泌を促すような食事(コーヒー、濃い緑茶や紅茶、焼肉、強い香辛料などの刺激物)や脂質の多い食事は控え、規則正しい食生活を心がけます。
    詳しい検査を受けましょう
 胃酸分泌抑制薬が市販薬にも使われるようになり、誰でも手軽に服用できるようになりました。
 しかし、市販薬だけに頼ると重い病気を見逃してしまうことがあるので注意が必要です。
 慢性胃炎では、特有な症状というものはなく、胃の不快感や胃痛の影には胃潰瘍や胃がんのような恐ろしい病気が隠れている可能性もあります。
 胃の具合が悪いときや、胃炎が心配になったら内科の病院(できれば消化器内科)で詳しい検査を受けることが大切です。
   



編集:株式会社ライフメディコム
制作:エンパワーヘルスケア株式会社
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