無意味な行為が止められない〜強迫性障害
 
 
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授


強迫性障害ってどんな病気?
 
 強迫性障害OCD:Obsessive Compulsive Disorderの略)とは、自分の意思に反して、不合理な考えやイメージが頭に繰り返し浮かんできて、それを振り払おうと同じ行動を繰り返してしまう病気です。症状としては、抑えようとしても抑えられない強迫観念と、それによる不安を打ち消すために無意味な行為を繰り返す強迫行為があります。
不安 手を洗ったあとでも汚れが気になったり、戸締まりを何度も確認したくなったりする経験は、誰にでもあることでしょう。しかし強迫性障害では、それが習慣性をともない、どんどんエスカレートして日常生活に支障をきたすほどの状態になります。
 例えば、手の汚れが気になるという強迫観念に対して、手洗いを必要以上に何度も繰り返すといった強迫行為をしてしまいます。本人もつまらない考えだとわかっているのに、意思に逆らって不合理な考えがふくらみ、止めようとすると不安が募り、安心感を得られるまで強迫行為を止めることができないのです。
 日本において、この病気は成人の40人に1人の割合で見られるといわれています。その発症年齢は早く、多くは19〜20歳です。成人患者の30〜50%は小児期から青年期に症状が出始めていることがわかっています。

強迫性障害の症状は?
   
 不合理な思考に支配される強迫性障害の強迫観念にはさまざまなものがあり、通常はそれぞれに関連した強迫行為をともないます。

強迫観念と強迫行為の具体例

手洗い汚染に関するもの
 電車のつり革につかまったりトイレに行ったりしたあとなどに、バイ菌などに汚染されたのではないかという不安が生まれます。さらにいろいろなものに接触することによって汚染が広がっていくと感じるようになり、何度も手を洗ったり、何時間もお風呂に入ったりしてしまいます。

安全確認に関するもの
 家を出るときドアに鍵をかけたか、あるいはストーブの火を消し忘れていないかなどと不安になり、何度も家に戻って戸締まりや火の元を確認します。自分の行為が完全だったかどうか絶えず疑いを持ち、何度も確かめないと気がすまなくなります。

他傷行為への疑念に関するもの
 車の運転中にタイヤが何かを踏んだりすると、人をひいたのではないかという不安に襲われ、その場所に戻って車を降り、誰かをひいていないかどうかを確認します。その他にも、自分の行為が誤って人を傷つけてはいないかという不安にさいなまれます。

順序や数字などに関するもの
 衣服を着るときなどに、必ず決められた順序で行わなくてはいけないと考えます。順番を間違うと最初からやり直してしまい、1つの行為に長時間を費やします。
 特定の数字を不吉と感じ、あらゆる行為の際にその数字を避けようとします。左右対称でないといけないといった、ものの配置などに強くこだわるケースもあります。

その他
 要らなくなったものでも、いつかまた使うのではないかという思い込みから捨てられず、家の中が不要なもので埋め尽くされることもあります。
 症状が悪化すると、家族などにも徹底した掃除を強要したり、戸締まりなどを自分で確認するだけでは安心できず、何度も確認させたりするなど、身近な人を巻き込んでしまうこともあります(「巻き込み型」といいます)。

発症の原因は?
   
 強迫性障害は、脳内の特定部位の障害や、脳内の神経伝達物質であるセロトニンなどの機能異常によって起こるといわれています。
 セロトニンは、脳内の情報を神経細胞(※)から神経細胞へ伝達する役割を担っています。強迫性障害の場合、神経細胞から放出されるセロトニンの働きに何らかの問題が起こって機能異常が生じ、汚れの認識、安全の確認などといった情報の伝達が十分に行われなくなると考えられています。
※神経細胞・・・情報の伝達と処理を行う細胞


検査と診断
 
 強迫性障害の患者さんには、心の中に生じる強迫観念や強迫行為に気づいていても、自分から人に相談しようとせずに、症状を恥じて隠そうとする傾向があります。治療を受けることなく、長い間1人で苦しんでいるケースも少なくありません。
  医師は以下のような質問をして診断します。


【強迫性障害の診断に役立つ質問例】

1.どういったものを汚いと思いますか?何度も繰り返し手洗いをしますか?
2.どのような「確認」の症状が出ますか? どんな時に出ますか?
3.繰り返し浮かんでくる考えや行為で何か困っていることはありますか?
4.1つひとつの行為をやり終えるのに長い時間がかかりますか?
5.順序正しいことや左右対称にとらわれすぎていませんか?
6.自分の行動を馬鹿げていると思いますか?  など

 上記は代表的な質問項目です。その他にも、さまざまな質問を患者さんに投げかけることで、具体的な治療方針を立てていきます。
 強迫行為は、脳炎、脳血管障害、てんかんなどの脳器質性疾患でもしばしば見られます。これらの病気が疑われる場合は、血液や髄液などの検査、頭部CT(Computed Tomography/コンピュータ断層撮影)、MRI(Magnetic Resonance Imaging/磁気共鳴画像法)などの画像検査、脳波検査などを行います。


治療方法は?
 
 強迫性障害の治療は「薬物療法」と「認知行動療法」の2つを中心に行われます。

薬物療法
 強迫性障害の治療には、強迫性障害の原因の1つと考えられているセロトニンの異常を調整する働きを持つ薬を使用します。
 主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が用いられます。SSRIは抗うつ薬の一種で、脳内神経伝達物質のうちセロトニン系のものだけに作用し正常に近い状態に調整します。この薬を12週間継続使用しても症状が緩和しない場合は、三環系抗うつ薬の塩酸クロミプラミンをあわせて使います。

強迫性障害の主な治療薬…不安感や憂うつな気分を和らげる
薬名 SSRI
(フルボキサミン、パロキセチンなど)
三環系抗うつ薬
(塩酸クロミプラミンなど)
特徴 第3世代の抗うつ薬。セロトニン系の神経伝達物質だけに作用する。比較的副作用が少なく安全性が高いとされている 第1世代の抗うつ薬。脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンやセロトニンを増加させる働きを持つ
主な
副作用
吐き気、食欲不振など けいれん、便秘、口の渇きなど

薬 上記の他、抗不安薬や抗精神病薬を併用することもあります。
 強迫性障害の薬は、効果が見られた場合でも、早期に中断すると症状が再び現れることが多いので、1〜2年程度、薬物治療を継続する必要があります。薬が効かないなどと自己判断で服用を止めてはいけません。症状を悪化させたり、治療を長引かせたりする原因にもなります。強迫性障害は、焦らずゆっくり治療に取り組むことが大切なのです。

認知行動療法
 治療の効果が高いと考えられているのが認知行動療法です。認知行動療法とは、日常生活の中で生じるさまざまな問題に対して、患者さんがどのように考え、行動し、あるいは感情や身体が反応するのかを把握して、その対処法を考え、現実的に判断して柔軟に行動することを促す治療法です。
 一般的なものとしては、暴露反応妨害法があります。この療法では、患者さんに強迫観念や不快感を引き起こす状況や人物にあえて直面させ、刺激を与えます。軽い刺激からスタートして、段階的に与える刺激の程度を強め、徐々に慣らせていきます。挑発的な刺激に繰り返し直面しても不合理な行為につなげないように努力することで、患者さんの不快感や不安は次第に薄れていきます。そして「強迫行為は不要である」ということを患者さん本人が自覚するようになります。この治療には患者さんが高いモチベーションを持つこと、患者さんと治療を行う側との信頼関係が大切です。
 この暴露反応妨害法は、病院だけでは効果が不十分なので、家庭でも実施する必要がありますが、いったん習得すれば、治療終了後も日常的に継続して行うことができるため、改善効果は長期にわたって持続すると考えられています。
 その他にも強迫性障害を改善する精神療法として、患者さんの悩みや不安をよく聴いてあげることでそれを軽減しようとする支持的精神療法、患者さんがあるがままの自分を受け入れることで不安を克服させようとする森田療法、患者さんの心に浮かんだ連想から病気を分析していく精神分析療法などがあります。


病気のことを理解しましょう
 
 強迫性障害の治療を行う上で重要なのは、まずこの病気について正しく理解することです。強迫性障害による強迫観念や強迫行為は、本人の性格や性質によるものではありません。家族や身近な人は、患者さんの症状を理解してあげてください。どうして、そのようなつまらないことが気になるのかと思うかもしれませんが、気になること自体が病気なのです。本人の苦痛は、そばで見るより深刻だと考えてあげてください。

【ご家族の役割】
○病気のことを理解する。
○患者さんの性格の弱さなどを責めない。本人の苦しみや治そうとする努力を理解する。
○患者さんの病気に対して過度の罪悪感や責任感を持たない。
○治療を続けることを応援し、症状の波に一喜一憂しない。
○治療の手助けはするが、強迫行為自体は手伝わない。
○患者さんが日常生活のリズムを維持できるよう、配慮しサポートする。
○気長に応援し、患者さん本人が少しでも余裕を持てるように努める。 など

 強迫性障害は、症状が多様で見分けにくい疾患ですが、適切な治療を早期に開始することが大切です。また患者さんの約3分の1にうつ病の症状が現れるといわれています。うつ病を併発すると苦痛がより大きくなり、治療にも時間がかかります。気になる症状が現れたら、精神科などの専門医を受診して正しい治療を受けるようにしましょう。


編集:株式会社ライフメディコム
制作:エンパワーヘルスケア株式会社
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