パニック障害ってどんな病気?
 
 
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授


 
 パニック障害は、突然起こる激しい動悸や発汗、頻脈(ひんみゃく:脈拍が異常に多い状態)、ふるえ、息苦しさ、胸部の不快感、めまいといった体の異常と共に、このままでは死んでしまうというような強い不安感に襲われる病気です。
 この発作は、「パニック発作」といわれ10分くらいから長くても1時間以内にはおさまります。
 初めてのパニック発作で、救急車を呼んで病院に運び込まれる場合もありますが、医師の診察を受ける頃には発作は消え、血液検査や心電図検査をしても異常はみられず、時には気のせいなどと言われることもあります。
 パニック障害の特徴は、検査をしても身体的な異常は見当らないのに、パニック発作を繰り返すことです。

   
 脳の中には、脳内神経伝達物質といわれる物質が数種類あり、外界からの刺激に対応して、さまざまな働きをしています。
 パニック障害が起こる原因は、恐怖や不安に関係している神経伝達物質「ノルアドレナリン」と、興奮を抑える神経伝達物質「セロトニン」とのバランスが崩れるためと考えられています。これについて詳しいことはわかっていませんが、脳内のセロトニンが増加する治療を行うと、パニック障害の改善がみられることから推測されています。
   


 
 パニック障害の最初の症状は、突然の動悸や呼吸困難、発汗、めまいなどの身体症状とともに強い不安や恐怖感を伴うパニック発作です。
 パニック発作自体は、多くの場合20〜30分くらいでおさまりますが、何回か繰り返すうちに、また発作を起こしたらどうしようという、パニック発作に対する強い恐怖感や不安感が生まれるようになります。

 これは、「予期不安」といわれます。
 予期不安は、逃げ場のないような場所でのパニック発作や、発作を他人や大勢の人に見られることの恥ずかしさといった不安や恐怖を生み、大勢の人が集まる場所や、過去に発作を起こした場所を避ける行動をとるようになります。これが、「広場恐怖(外出恐怖)」といわれます。
 「パニック発作」と「予期不安」、「広場恐怖」はパニック障害の3大症状といわれる特徴的な症状であり、この3つの症状は、悪循環となってパニック障害をさらに悪化させます。パニック障害が悪化すると、人前に出るのを嫌って閉じこもるようになり、正常な社会生活が維持できなくなります。さらに悪化すると、うつ病を併発することもあります。
   


 
 パニック障害の疑いのある人は、心療内科や精神科の受診をお勧めします。
 パニック発作と似た発作を起こす病気は他にも「過呼吸(過換気症候群)」や「甲状腺疾患」などがあり、これらの病気がないことを調べるために血液検査、心電図検査、レントゲン検査などを行います。
   


 
 パニック障害の診断は問診が中心になり、アメリカで考え出された基準がよく使用されます。
 この基準は13のチェック項目があり、4つ以上当てはまるとパニック障害の可能性があるとされています。
 
 
心臓がドキドキしたり、脈拍が増加する
手の平や、全身に汗をかく
体や、手足がふるえる
息切れ感や、息苦しさを感じる
窒息感、または喉(のど)が詰まった感じがする
胸の痛みや圧迫感、不快感がある
吐気や腹部の不快感がある
めまい、ふらつき、または気が遠くなるような感じがする
現実感が失われ、自分が自分ではない感覚が起こる
自分をコントロールできなくなる恐怖や、気が狂う恐怖に襲われる
このままでは死んでしまうという恐怖を感じる
体の一部にしびれ感や、うずきを感じる
冷たい感じや、ほてった感覚がある
 
 
   


 
 パニック障害の治療には、主に脳内神経伝達物質のノルアドレナリンとセロトニンのバランスを改善する薬物療法が行われます。
 使用される薬剤には、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」「抗不安薬」「三環型抗うつ薬」などがあります。
 その他、心理療法もあります。

   
「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」
SSRIはパニック障害に一番よく使われる薬剤で、脳内のセロトニンを増やす作用があります。効果が出るまでに2〜3週間かかります。
副作用には、吐気や眠気がありますが、抗不安薬に比べると軽度とされます。
「抗不安薬」
パニック障害に使用される抗不安薬は、ベンゾジアゼピン系薬です。
SSRIが使われるようになる前は、パニック障害に一番多く使われていました。
眠気やふらつきなどの副作用はSSRIよりも強く、依存性・習慣性などの問題もあります。
「三環系抗うつ薬」
便秘や眠気、喉の渇きなどの副作用が強く、他の薬で効果がない場合などに使用されます。

   
 現在、パニック障害で保険が認められているSSRIはパロキセチンとセルトラリンです。治療を開始した最初の2〜3週間だけ抗不安薬のベンゾジアゼピン系薬を併用し、SSRIの効果が出るまでのバックアップとする方法が主に行われます。
 これは、SSRIに比べるとベンゾジアゼピン系薬の抗不安効果には即効性が認められている一方、副作用がSSRIよりも強く、依存性・習慣性がみられることによります。

   
 SSRIは1週間ごとに量を増やし、パニック発作を抑えられる量で1〜2年くらい内服を続けます。その後、パニック発作が起こらないのを確かめながら、少しずつ量を減らしていきます。量を減らしたことでパニック発作が再発した場合は、すぐに元の量に戻します。
  調子がよいからといって、勝手に量を減らしたり、服薬を中止することは絶対に禁止です。薬を減らすときは、必ず医師の指示にしたがって様子をみながら行います。
 SSRIを、突然中止すると、中断症候群(めまい、電気ショックのような感覚など)という強い副作用が現れることがあり、注意が必要です。
 SSRIは医師の指示を守り、適切に服用すれば、副作用は比較的少なく安全な薬とされています。
 しかし、眠気やめまいなどの副作用が出る場合もあるので、そのような症状がみられたら医師に相談してください。
 また、アルコールはSSRIの副作用を増強すると考えられていますので服用中は飲酒を避けてください。
   


 
 パニック障害の心理療法には、「認知行動療法」と「自律訓練法」があります。

   
 誤った(認知)行動習慣を少しずつ修正し、正しい(認知)行動習慣を身につけるという方法です。
 広場恐怖で、電車に乗れなくなっている場合は、無理やり電車に乗るのではなく、最初は駅の改札口まで行き、それが緊張なく行えるようになったら、改札口を通過してみようというように、段階的に少しずつ不安を克服して、誤った認知を正しいものへ修正していきます。

   
 心と体をリラックスさせる方法を身につける訓練です。
 パニック障害では、パニック発作を起こしていない場合でも、正常者に比べると高い緊張を維持していることがわかっています。
 常にピンと張った糸のようなものですから、普通なら何でもないことでも緊張が切れてパニック発作につながります。ふだんからの緊張度を下げるために、自律訓練法は非常に重要とされます。

   
 パニック障害は心や性格に原因のある病気ではありません。100人に2〜3人がかかるといわれる脳の病気です。
 パニック発作は苦しい症状ですが、幸い直接生命を脅かすものではありません。SSRIなどによる適切な薬物療法で改善します。心理療法を薬物療法に組み合わせるとさらによい効果が得られるといわれています。
 治療には2 〜3年という長い年月が必要です。ご家族など、周りの方がこの病気のことを理解して支えてあげることが大切です。

   


編集:株式会社ライフメディコム
制作:エンパワーヘルスケア株式会社
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