知的な女性のために

漢方の思想的背景

女性の漢方 

(婦人漢方治療)

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知的な女性のために

知的な女性のために

漢方の思想的背景

 二十一世紀は分子生物学の時代といわれ、西洋医学の成功は驚異的でとどまる処を知りませんが、その基本的な思想は人間機械論です。
            
 近代医学は、思惟とは物質の一種の属性にすぎないとか、心霊はなんの意味もない空洞の代名詞であるとしたラメトリーや、肝臓が胆汁を分泌するように、大脳は有機的に思想を分泌するというカニバスなどの機械的唯物論を継承せており、バイオサイバネステックの創始者の一人ウイナーは、人は血肉の自動機械にすぎないし、生物体は熱機関であるとみなした。

 現代アメリカの生理学者ジーンズは、一切の生物現象は結局物理学と化学の法則として帰結できるとみなした。精神作用は電気的パルスであり、意識も量子生物学で解明できると信ずる学者もいる。

 医師の多くは自己を医学者・科学者と規定し、近代医学=自然科学=西欧近代医学とみなし、世界の病気はすべて科学的(物理化学的アプローチによって)解明できるという考え方と、現時点でそれは不可能でも将来必ず可能になるという信念をもっている。これを支える基盤は科学主義と進歩史観であり、全体は部分の総和であるという素朴な要素還元論であり、帰納主義である。

 ゲノムの全解読、分子の並びそのものが直接、情報の担体でありうるという驚くべき事実から、ナノテクノロジー、遺伝子工学、ロボット工学により体外受精、クロ−ン、代理出産、細胞核移植、配偶子バンク、凍結胚などの発達は人類の運命に凄まじい変化をおよぼす。

二十世紀の大量破壊兵器に用いられた核(N)、生物科学(B)、化学(C)のNBC技術にかわって、二十一世紀は遺伝子工学(G)ナノテクノロジー(N、微小工学)ロボット工学(R)のGNR技術がリードする。    

 さらに今後三十年間で百万倍の機能アップが予想されるコンピュータ技術が加わるなら、やがては人間から意識をダウンロードし、しかも生物のように自己複製が可能なロボットが誕生し、人間にとってかわるという話もいまや、あながち荒唐無稽と言えない。

 生殖とセックスは分離し法律で禁止しても結局は、永遠の生命を目的としたクローン人間、人間のコピーもつくられるであろう。
 
 これによって伝統は崩壊し、家族、社会はバラバラになる可能性は絶無ではない。

 カール・セーガンが「惑星 Pale Blue Dot」のなかで”あらゆる犠牲をはらってでも真実を求める”という科学信仰の暴走、やって良いことと、やってはならないことを区別し、制約を課す文明をもつ惑星のみが危機を回避することができる。 だが運に恵まれなかった文明、慎重さを欠いた多くの惑星は滅んでゆく、とのビジョンをのべたが、単にナイーブとのみは言いきれない。

 哲学者ジョン・レスリーは恐竜のごとく、科学による人類絶滅の危機は30%と予想している。

 未来には一部の人類はこうした文明の地球をすて、恒星から恒星へと飛び回っては人類の生存機構を複製してゆくフォンノイマン探査装置を駆使して銀河系を植民地化してゆくというSFもいまやたんなる空想とは言えないかもしれない。

 宇宙飛行士の体験とおなじように、分子生物学が発展して、生命の根源に迫れば迫るほど、生命現象からの抽象化、われわれを存在たらしめているもの(宗教が神、絶対者と呼ぶもの)への新しい解釈体系、医療哲学が痛切に求められるであろう。

 すでに生命科学の若手研究者自身が、生命現象に対応する蛋白質や遺伝子をつりあげるだけという現在の生命科学の状態に閉塞感を抱きはじめている。

 今世紀前半に大流行した生命論という水脈が、二十一世紀への知的遺産としてどのような意味と可能性を秘めているのか。医療はその時どのような思想的対応するのか。

 ハイゼルベルグの不確定性理論、クオンタム理論、ポストモダン派、カオス理論、複雑系、環境問題などいろいろ論争はあるが、神の領域にまで踏み込む医療は、人類に限りなく不気味な事態を引き起こす可能性もひめている。その暴走は科学絶対主義という一種の宗教であり、生命哲学なき法律規制のみでは抑止できないであろう。

 これによって、医療はますます限りなく生物学〔分子生物学〕に近づいてゆく。

 西洋医学で治すという行為は、器械工学に近い(臓器移植、遺伝子治療)。病んだ個所を治すことに全力がそそがれるが、それ以外の部分は見過ごされがちである(左右乳房誤切除)。自然科学を基礎として客観的であろうとする医療は、必然的に患者の訴えから離れていくばかりか、患者個々人の感情や思いを意図的に分断する作業をしている。

 しかし、人間は部分の総和以上の全体として存在する生命有機体であり、生命現象を単純化、モデル化して帰納的理解を求めようとするリダクシオンニズム、すなわち現象を起こしている要素を特定して、その特異的機能を分析する考え方では、部分だけを見て全体を見失ってしまうことがある。

 医療はきわめて人間的な営為であり<治す>という価値のバイアスがかかっており、客観的、理論的、普遍的、還元主義的、分析的な現代生物科学医療とはあいいれない面がある。

 これに対して伝統的東洋医学の基礎は自然哲学であり、個別的、経験的、総合的、実践的、主観的であり、カール・セーガンなどの憂慮するあらゆる犠牲を払ってでも真実をもとめる科学の暴走(GNR技術など)に歯止めをかける医療思想である。

 確かに1970年代のホリステイック・メデシンはそれほど生産的ではなかったし、ローザクの反科学論やソーカルのトリック論争などの反省をふまえて医療が分子生物学に近づけば近づくほど、人体の細胞60兆それぞれに仏ありという伝統的東洋哲学、生と死の哲学、それに基づく東洋医療思想が痛切に求められるようになるであろう。

 それは、要素還元論にたいする有機システム論、心身二元論にたいする心身相関、心身一如、人間機械論にたいする精神霊的ダイナミズム、特定病因論にたいするバランス理論、過剰医療介入にたする自然治癒力、伝統医療の排除にたいする伝統医療の積極的評価である。
 
 西洋医学的考え方で代替医療(Altanative medecine)として漢方を使う医師も多いが、真の漢方治療はこのような西洋医学とは反対の東洋思想的背景の理解のもとに行なう時、その真の価値を発揮する。

 [惑星へ] カール・セーガン 朝日文庫
 
 [ソーカル事件] http://weber.u.washington.edu/~jwalsh/sokal/ 

 [知の欺瞞] アラン・ソーカル 田崎 晴明ほか 岩波書店

 [対抗文化の思想] ローザク 稲見ほか訳 ダイヤモンド社
                           
 [医療学哲学はなぜ必要なのか] 石渡 隆司 時空出版

 [生命論の季節ふたたび] 米本 昌平 中央公論2000.10月

 [醫界の鉄椎] 和田 啓十郎 春陽堂

 [医学弁辯証法] 管井 正朝訳 雄揮社

 [臨床の知] 中村 雄二郎 岩波新書



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