当院の学術調査
当院におけるニコチン依存症治療の検討
目的:ニコチン依存症の治療において成功例、失敗例を検討し、治療成績に影響する因子等を検討した。
方法:スクリーニング、治療は「禁煙治療のための標準手順書」に則って行った。ニコチン依存度の評価はTDSと合わせてFTNDを加えた。禁煙治療終了の時点で4週以上禁煙を持続した症例を成功例とした。なお来院しなくなった症例は不成功例とした。
結果:成功例は67例中40例(59.7%)で年齢の平均は51.3歳、男/女比は1.2であった。失敗例は27例(40.3%)で年齢の平均は44.6歳、男/女比は2.4であった。年齢は成功例群において有意に高く、男女比は失敗例群の方が男性の比率が高かった。ニコチン依存度を示すTDS,FTNDと喫煙度を示すBI、呼気COには成功例と失敗例で差は認めなかった。
まとめ:初診時の指標の中では、女性と高齢であることが禁煙に成功しやすい因子であると示唆された。ニコチン依存度を診断する尺度としてはTDSが現在使用されている。しかしFTNDも有用な尺度であることが予想される。
在宅NPPV(Non-invasive Positive Pressure Ventilation)施行症例の検討
【目的】在宅にてNPPV療法を施行症例の効果と導入時の差異を検討した。
【対象、方法】平成10年より15年8月までの期間で年齢は27歳〜88歳(男性10人 女性6人)。疾患は肺気腫5例、肺結核後遺症9例、じん肺1例、先天性脊椎後側彎症1例。観察期間が100日未満と悪性腫瘍合併例は除いた。動脈血分析は導入前と在宅に移行後30日以上経過後に測定した。
【結果】導入前PaCO2は63.7±1.9mmHgで在宅移行後は56.9±1.6mmHgであった。観察期間の平均は926.3日(最短194日、最長1922日)で在宅率の平均は93.6±2.2%であった。観察期間中に入院回数が0ム1回の群(A群、8例)と2回ム4回の群(B群、8例)で各指標を比較した。その結果両群での導入前後PaCO2、IPAP、EPAPで差は認めなかった。導入前後のPaCO2の差であるΔPCO2はA群7.4±1.5mmHg、B群6.1±1.4mmHgとA群でやや良好な傾向があった。
【まとめ】在宅NPPV療法を導入した症例を検討した。導入によりPaCO2の改善を認めた。今後導入によって予後の改善、在宅率の向上、入院機会の回避を期待したい。
当院における肺炎球菌ワクチン接種の検討
(目的、背景)近年肺炎死は増加傾向であり、そのうちの95%が高齢者である。その理由として高齢者肺炎は、訴えに乏しく、症状が非定型的、検査、画像等にて断定しにくく、診断が困難であり、治療開始が遅れる傾向にある。また治療も免疫能低下、低栄養、複数の基礎疾患、臓器機能低下、精神症状 等々のため難治性である。
そのため高齢者において肺炎予防は極めて重要であると考える。
今回は当院における肺炎球菌ワクチン接種症例の検討をおこなった。
(症例、方法)期間は2002年から2004年の患者希望時に肺炎球菌ワクチン(Pneumovax)を接種した。毎年10月から12月の時期にインフルエンザワクチンの接種を行った。
症例数は95例(男52例 女43例)。平均年令 76.9才(最低60 最高90才)であった。
基礎疾患は主病名として、COPD 16例、肺結核後遺症15例、気管支喘息14例、高血圧14例、気管支拡張症と非結核性抗酸菌症とDPB13例、脳血管疾患5例 糖尿病5例、肺腫瘍4例、間質性肺炎3例、慢性心不全3例、虚血性心疾患2例、皮膚筋炎1例であった。
(結果)転帰は死亡7例、不明5例、通院中83例( 2005年10月末の時点での、接種からの平均観察期間は605.2日)であった。
通院中83例での観察期間中の抗生剤投与回数と入院回数を検討した。
抗生剤投与回数は0回15例、1回20例、2回28例、3回7例、4回3例、5回以上10例であった。
入院回数は0回62例、1回14例、2回4例、3回1例、4回1例、5回1例であった。
(考察)東北大学老年呼吸器内科では、介護施設入所中の高齢者294例で肺炎球菌ワクチン接種例と非接種例を比較し、接種例において年間の発熱日数、入院回数が有意に減少したと報告されている(J Am Geriatr Soc 52:1410,2004)。
当院では非接種例との比較検討は困難であったが、接種例での年間の抗生剤投与回数は平均で1.14回、入院回数は0.28回とワクチン接種の有効性が示唆される所見と思われた。
(まとめ)予防対策の一つとして肺炎球菌ワクチンの接種は有効性が期待できる。
他の予防対策と比較した場合、その施行は容易である(経済的負担は大きい)。
日本医事新報 No.4286号の時論に当方の意見が掲載されましたので転載します。
高齢者肺炎について
現在日本の疾患別死亡率において肺炎は、悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患についで4位に位置してる。ここ10年から20年に優れた抗生剤が次々と開発されているが、肺炎死亡の年次推移をみると増加傾向である。肺炎の年齢別死亡率をみると、65才から70才を境に急速に増加し、80才以上においては死亡原因の首位となり、また高齢者肺炎の治療成績は10年、20年前とあまり変化してないとも報告されている。これは抗生剤の進歩によって若年者が死亡することは稀になったが、高齢者肺炎の死亡を防ぐには抗生剤の進歩だけでは困難であると考える。今後高齢者人口が増えるにしたがって、高齢者肺炎の増加が予測され、早急な対策が必要と考える。
高齢者肺炎の特徴として、症状の訴えが乏しく非定型的のため診断が困難(発熱がないか軽微、検査上炎症所見に乏しい、画像も断定しにくい、等々のため)、また治療も難治性(免疫能低下、低栄養、複数の基礎疾患、臓器機能の低下、精神症状 等々のため)が上げられる。ようするに高齢者肺炎は診断が難しく、そのため治療が遅れる傾向にあり、治療も苦渋することが多いと考える。よって発症予防と増悪予防が最重要と思われる。
2005年の秋改訂された日本呼吸器学会の市中肺炎ガイドラインにも予防の項目があり、それによると、1.マスク、手洗い、うがい 2.口腔ケア、誤嚥対策、咳反射確保 3.予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌)4.基礎疾患対策 が上げられている。
前置きが長くなったがここで2点程私見を述べたい。
まず1点目は肺炎球菌ワクチン接種率を上げることである。肺炎球菌ワクチンはEBMの点で疑問も指摘されていたが、近年徐々に有効性を示す報告も増えていると感じる。また先に挙げた他の予防対策と比較した場合、その施行は容易である。例えば基礎疾患対策は、多くの基礎疾患は加齢に伴う場合が多いので十分なコントロールが困難な場合もある。口腔ケアの有効性は高いと考えるが、継続して行うのは多大な努力を要すると思われる。咳反射の確保に関しては、咳症状を訴えて外来受診した患者に対して、防御反応としての意義をご説明しても、なかなか十分にご理解頂けず、ご不満を与えてしまう場合もある。
問題は経済的負担がやや高いことにあるが、これには公的補助の導入を検討するべきと考える。現在インフルエンザのワクチンは殆どの自治体で公費補助があるが、肺炎球菌ワクチンの補助はごく少数の自治体のみと聞いている。また現在日本では追加接種は禁止されているが、世界的には追加接種を行う方が標準と思われ、早急な再考が必要と思われる。
2点目は疑い症例の早期医療介入である。現在救急、循環器、脳外科等の指導的医師は急性冠症候群、脳卒中等が疑れた場合は、確診に至らない疑い例でも早急に病院に搬送するように啓蒙している。その結果、いわゆる「ハズレ」症例も多くはなるが、救命できる症例も確実に増加したとされる。以前某学会誌の対談である大学の循環器科の医師が、「ハズレ症例を多く診ることを誇りに思い、若い医師にもそのように教育している」との発言をみて感銘を受けた。実際我々開業医も多くの場合「これはハズレかな?」と思いながらも、万が一のことを考慮し病院に紹介するケースが多いのである。実際に「ハズレ」も多いのだが、紹介してよかった症例もあるのも事実である。
話はずれたが、高齢者肺炎は先に上げたように診断が難しいことが多いので、疑い例でも心臓病、脳卒中と同様に早期に積極的に病院の管理下におくことにより、救命率、早期退院、ADLの維持、家庭への復帰率が向上することが予想されると考える。是非呼吸器科、感染症科、老人科等の指導的立場の方には、このような対応を啓蒙することを、ご検討頂きたく思う。とかく高齢者の入院依頼は病院勤務医からは嫌がられる傾向にある。私も勤務医を経験していたので、その気持ちは十分理解できる。しかし救命例を増やすには「ハズレ」例も増えるのはしかたないのではと考える。また開業医は病院勤務医の負担を軽減するためにも、非高齢者、低リスク患者の軽症、中等症の肺炎はなるべく外来治療を行う努力が必要と考える。
赤血球増多症を示し遺伝子解析で診断したサラセミアの一例
症例は成人男性。家族歴:特記を認めない。生活歴:煙歴なし。飲酒は少量。
2005年某月、慢性疾患治療目的にて当院受診となる。
初回スクリーニング時検査データ(9/24)では、GOT 85 U/L GPT 224 U/L 白血球数 7440 /μI 白血球像 特記所見なし 赤血球数 590 万/μI 血色素量 12.2 g/dl ヘマトクリット 38.1% MCV 65 fl MCH 20.7 pg MCHC 32.0 %と赤血球恒数の低値をみとめた。そのため10/21再検、追加検査をおこなった。GOT 49 U/L GPT 119 U/L γ-GTP 81 U/L LDH 172 IU/L T-Bil 1.8 U/L 白血球数 9580/μI 赤血球数 681 万/μI 血色素量 14.2 g/dl ヘマトクリット 45.8% MCV 67 fl MCH 20.9 pg MCHC 31.0 % 網状赤血球比率 13.7% Fe 167 μg/dl UIBC 138 μg/dl フェリチン 724.3 ng/ml HBs-Ag 陰性 HCV-Ab 陰性 であり、なお赤血球恒数の低値を認めるが、貧血は認めずむしろ赤血球数は増多傾向、鉄動態には異常を認めなかった。そのため春日部市立病院血液内科に相談した所、サラセミアの疑で現時点では経過観察との方針とした。
その後も同様の検査結果を持続するため、患者に説明と同意を得た後に確定診断目的にて遺伝子検査を依頼することとなった。遺伝子分析ではαのヘテロ接合体とβグロビン遺伝子に欠失を認めた。以上よりα、β両者の複合ヘテロ接合体と考えられた。
考察)通常サラセミアは貧血を認める。その原因は一方のグロビンの合成が減少して、両者(α、βグロビン鎖)の合成バランスが崩れるためと考える。
本症例はα、βサラセミアが共存したためバランスが保たれ逆に貧血は軽くなり、赤血球増多を示したと考えられた。
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